激情を抑えない俺様御曹司に、最愛を注がれ身ごもりました
「あ、はい。こんにちは」
なぜ私だとわかったかと思ったものの、そこにカメラがついていることに気づく。
汗ばんだおでこに前髪が貼り付いているのを、慌てて指先で払って整える。
「今おりる。ロビーで待ってて」
そう言うと目の前のガラスの自動ドアのロックが解除され、静かに扉が開かれた。
中へ入ることが許された来客には、広々としたエントランスホールが待っていた。
落ち着いたグレー調の床のホールは、ソファがいくつも設けられたロビーラウンジになっている。
向こうにはコンシェルジュカウンターがあり、スーツを身につけたきっちりとした身なりの男性が姿勢よく掛けていた。
田舎から東京に出てきたとき、タワーマンションの多さに目を見張った。
前を通りすがっても、こんなところには一体どんな人が住むのだろうと思いながら見上げていた。
自分には一生縁のない領域だとばかり思っていたのに、今、そんな場所に足を踏み入れていることが信じられない。
人生どんなタイミングでどう転がるかわからないなと、豪華なロビーラウンジをぐるりと見回しながら思っていた。
静かなエントランスホールに足音が響いてきて、つられるように目を向けてみると、奥から今日もスーツ姿の香椎さんが歩いてくるのが目に入った。