ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「本当は、僕がレオに代わって君を幸せにしたいって。そう思ってたんだ」
「マティアス……?」
「メイがレオと婚約すれば、コレットが僕のことを見てくれるかもしれないって……そんな卑怯な手を考えたんだ」
「……」


 申し訳ないけれど、マティアスが私に好意を持ってくれていることは知っています。ゲームの設定通りだもの。
 だけど『卑怯な手』なんて言われたら、混乱してしまうわ。
 レオ様とメイ様は、運命に導かれて惹かれ合ったのよね? 誰かの『卑怯な手』によってコントロールされているわけではないわよね?


「この前、僕がコレットを訪ねた日。メイは王宮に行って宰相と会っていた。そこでわざとレオに押されたフリをして階段から落ちたんだ。それでレオは責任を取ってメイが回復するまで付き添っていただけだ」
「嘘……だって、メイ様はさっきあんなに猛ダッシュで王宮に入って行ったじゃない。ケガをしているようには見えなかったわ」
「何だかよく分からないけど、メイは階段落ちが得意らしい。前世で何度も階段落ちの経験があるからって、よく分からないことを言っていたけど。だから、ケガは嘘だ」


 うっすらとした前世の記憶で、確かに階段から落ちるシーンの映画だか舞台を観たような気もするけれど、もしかしてメイ様って役者さんだったのかしら?


「じゃあ、レオ様はメイ様のことを好きだからあんなにいちゃいちゃしていたわけじゃないってこと? メイ様がケガをしたと嘘をついて、無理矢理突き合わせていたということなの?」
「そうだよ。あの日、あの噴水のところにコレットを連れて行ったのだって、事前にメイと示し合わせていたんだ。わざとレオとメイが一緒にいるところを、コレットに目撃させようとして……」


 確かに、あの日のマティアスのハンカチ落としのような動きは、ちょっとおかしかったです。
 ……でも、私がその時に気付けば良かったのね。

 レオ様は、メイ様に惹かれているんじゃない。
 ケガをさせたと思っているから、仕方なくメイ様を支えて付き添っていたということなのね?


「マティアス。私、レオ様のことを諦めるって決めたのよ。お別れも言ってきた」
「コレット、急いで。まだ間に合うよ。メイがレオと一緒にムーンライトフラワーを見る前に」
「それは……」
「早く行って。僕に対して色々と思うところはあるだろうけど、あとでいくらでも聞く。取返しが付かなくなる前に、早く」


 マティアスに背中を押され、私はもう一度、王宮の裏口に向かって走りました。
 
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