ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「あら、コレット様ご存じなかったの? 皆さんの間でもっぱらの噂だったのでつい……ごめんなさいね。ウェンディ様のお兄様がご覧になったのよね、ウェンディ様?」


 突然話を振られたウェンディ様が、決まりの悪そうな顔で私から目を背けました。ネリー様がウェンディ様の方に目配せして、話をするように促します。


「あの……私の兄が……王宮で勤めているのですが……見たと言うんです。若い女性とそのお父様らしきご年配の男性が、夜になって明かりの落ちた王宮の奥に忍んで入って行かれるのを……」
「王宮の奥の方と言えば、王家の皆様のお部屋のある場所ですわね。それはいつ頃の話だったの? コレット様はご存じないようだから、教えて差し上げたら?」
「……三カ月程前だったと思います。その後はお父様はいらっしゃらず、毎週のようにその女性だけが同じ時間帯に通われているようです」


 目の前が真っ白になるとか、血の気が引くとか、そういう言葉は今のような状況の時に使うのね。指先の方からスーッと血が引いてくるのが分かります。

 私が最後にレオ様に会ったのは四カ月前、新年のご挨拶の時。それ以降は、レオ様が忙しくなって一度も会えていない。それなのに、三カ月前から別の女性を王宮に通わせているですって? しかも毎週?

 
 ネリー様は、言葉の一つも口に出せないほど驚いている私を見て得意気です。


「コレット様。殿下が側妃を通わせていることが噂に広まっているので、他のご令嬢たちも側妃に上がりたいと色めき立っていますのよ。そもそもコレット様が婚約者に選ばれたのだって、殿下とお年が近い高位令嬢がコレット様とリンゼイ様しかいなかったからですもの。ここまで結婚までに時間がかかるのなら、私たちのような少し年下の年代の者も、婚約者候補にしていただけたはずですのに。皆さんが側妃を希望されるのも当然ですわ」


 何か言わなければ……と思っても、頭の中がぐちゃぐちゃで何も出てきません。私は、少し離れたところで控えているメイの方を見ました。


「……コレット様!」


 私の合図を察してくれたのか、メイが駆け寄ってきます。


「どうされました? 体調が悪い……ですね! 皆様、本日はこれで失礼いたします!」


 仕事の早いメイが、私を支えてお茶会から連れ出してくれます。
 側妃……側妃って? やっぱり私は、悪役令嬢の運命から逃れられないの? 来月のパーティーで、婚約破棄を言い渡されてしまうの?
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