ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「夕日……きれいだったわね」
「何よ、メイもちゃんと景色を楽しんでるんじゃないの! 人の事を幸せな頭だなんて失礼ね」


 宿の部屋で二人、ベッドで寝転んで女子トークに花を咲かせます。ウェンディ様はお一人で別室へ、ディラン様も個室に泊まります。
 私はベッドにうつ伏せになり、今日見た景色を思い出していました。


「夕日が沈む西の方向には、王都。そう思ったら、またレオ様のことを思い出してしまったわ。私って嫉妬深い悪役令嬢だわね。ちゃんと断罪を受けられるかしら」
「アランの話を聞いたでしょ? レオが側妃を迎えるのは確実だし、あの様子だと既に妊娠中よね。控え目に言っても最低だと思うわ。側妃を迎えるだけならまだしも……長年の婚約者との結婚もまだなのに側妃と子供作るのはナシでしょ。順番ってものがあるわよ」
「……」
「だから、もういいんじゃない?」
「……いいって、何が?」
「逃げちゃおうよ! 私が言える立場じゃないけど、ちょっとあまりにもアンタが可哀そうだわ。見てられないもの」


 もう、逃げてもいいのかしら。

 どうせ婚約破棄されて国外追放なのであれば、先に修道院に入ってしまう手もある。パーティまではあと一週間。この旅から帰ったらすぐだわ。でも……


「メイ、今日のきれいな景色を見たでしょう? グランジュールにこんなに綺麗な場所があるなんて知らなかったの。でもね、このエアトンの美しい景色も街並みも、全てレオ様が守っていく大切なグランジュールの一部なのよね」
「何が言いたいの?」
「自分でも分からないわ。ただ、この夕日の美しさもレオ様が守るものの一つなんだわって思っただけ。レオ様が王太子という立場から逃げずに戦っているのに、悪役令嬢の私だけ戦いもせずに逃げるのは嫌だと思ったの。もう眠いわ。お休み」


 長旅の疲れで眠りにつく私の横で、「アンタ本当にバカね」っていう悪口が聞こえた気がしました。
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