ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「……もう悪役令嬢ごっこはやめろ」


 再び地を這う低音で、レオ様がうなります。


「悪役令嬢ごっこ……ですか?」
「お前は、自分の事を悪役令嬢だと思い込んでるから、いつもいつも変な妄想ばかりするんだ。断罪だの国外追放だの不幸な未来だの……もういい加減にしろ」


 何よ、今度は逆ギレ? 目には目を、歯には歯を。ええ、逆ギレにはちゃんと受けて立ちますよ。

 ねえコレット、堪忍袋のメンテ終わってる?


「……青ざめたり怒ったり、レオ様って本当に忙しい人ですね! 悪役令嬢で申し訳ございませんでした。私だって、幸せなヒロインに生まれたかったです。ヒロインみたいに幸せな人生が目の前にあったら、こんな妄想しなくて済んだわ」


 レオ様は目を見開くとスッと立ち上がり、再び私の手を取って部屋を出ようとします。
 さっきのような弱々しくて力ないレオ様ではなく、今度はいつものガラ悪いモードなのね! 先ほどからあっちに行ったりこっちに行ったり、人を振り回して一体何なのですか。


「誕生日パーティーはもうよろしいのですか? 主役はレオ様なのですよ!」
「……パーティーどころじゃない。もう、私は悪役令嬢ですなんて言えなくしてやるから、黙って付いて来い!」
「まあ、残念でしたわね。私、黙って付いて行くような素直な令嬢ではございません! 行き先を仰ってください!」


 主役不在の誕生日パーティーはいつの間にか王妃様のご懐妊お祝いパーティーと化し……

 主役だったはずのレオ様と悪役令嬢の私は一体どこへ向かうのか、大ゲンカをしながら王宮の中を突っ走るのでした。
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