ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「本当にやるの? 丑の刻参りと言えば確かに白装束よね。それに、頭にロウソク。だけど……アンタの白い服、これしかなかったわよ」


 大荷物の中からメイが白い服を取り出します。


「ウェディングドレスね……」
「本当に着る?」
「……着る」


 王太子妃として本当にどうかしてると思うのだけど、木の陰にかくれてウェディングドレスに着替え、頭に金属の輪をかぶり、そこにロウソクを立てる。

 このウェディングドレス、ものすごく気に入ってたのに。せめてロウソクのロウが垂れないように、手っ取り早く終わらせてしまいましょう。

 準備は完璧。

 林の中で一人ウェディングドレスに身を包み、頭にはロウソクを三本立てたわ。右手に五寸釘、左手には藁人形。
 この状態で、今から通りがかりの人にご挨拶しなければいけないなんて。

 ……でも、私負けない。

 今までだって、皆さまの前に数々の恥ずかしい姿を披露してきたもの。


 パン食い競争かのようなドーナツ毒見
 公衆の面前でレオさまと待ち合わせ
 エスコートなしでのパーティー登場
 喧嘩上等結婚式
 夫に押し倒されてる最中の侍女乱入


 ……ああ、恥ずかしい場面なんていくらでも思い出せる。


「さあ、メイ。ロウソクに火をつけて」
「……分かった。やるわよ」


 ロウソクに火がついたら、呪い開始の合図。アラン、見てる? 火をつけたわ! 早く誰かを連れて来て!

 林の中の一本の木に、左手で藁人形を当てる。右手の五寸釘は、尖った方を下にして拳に握りしめた。

 アランが誰かを連れてこちらに向かっているのか、葉を踏むカサカサという音が少しずつ近づいて来たわ。

 さあ、右手を思い切り振り被って……刺します!


「えいっ」
「……コレット! 待て!!」


 あともう少しで人形に一突きするところだったというその瞬間、私を呼ぶ声がした。


 ……ん? 聞き覚えのあるこの声。


 …………アランと一緒にこっちに向かってきたのは、レオ様?!
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