ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
「あーら、私の婚約者であるレオナルド殿下にいきなり話しかけるなんて、非常識じゃありませんことっ?」


 黒髪を縦ロールに巻いてきていて助かりました。見た目だけは完璧な悪役令嬢スタイルのはずです。


「まあ、あなたはこの前の。ドーナツを横から咥えていった方ね?」
「へえっ?!」


 バレてたっ! メイ様は記憶力もすごいのですね。


「えっと、とにかく! この方は私の婚約者ですから、気安く話しかけないでくださる?」


 さあ、メイ様! 王太子に婚約者がいることが分かって、ショックを受ける場面ですよ! 相変わらずニコニコされてますけど……。もしかして、婚約者がいること知ってた?

 ……気を取り直して、イジメスタートです。
 いつも殿下が私に言うことを、そのままやりますよー! 簡単簡単、真似するだけだもん!

 私は自分の制服の胸元に手をやり、リボンをほどきました。


「メイ様! 制服のリボンがほどけましたわ。結び直してくださる?」
「……リボンを? 自分でできないんですか? 本当に? なんて可愛らしい!」


 あれ? 殿下がいつも私に「おい、ネクタイ結べよ」ってイジメるから、私もマネしたんですけど……。可愛いって言われちゃった。いきなり失敗?

 ダメだ、私が喋れば喋るほど墓穴掘る気がする。

 その時、私とメイ様の間にアランが入ってきました。私の寸劇にいたたまれなくなったのでしょうか。


「コレット様。式でお疲れでしょうから、先に殿下とお帰りください。この方は私が責任持ってお送りします。殿下もそれで良いですね?」
「ああ、後はよろしく。メイ、またね。また会えるのを楽しみにしているよ」
「うん!……あ、はい! レオナルド殿下!」


 殿下は、自分がこのグランジュール王国の王太子であることをメイ様に話していたようです。いつの間にかアランとヒロインとの出会いイベントも終わりましたし、ゲームの展開が少し早すぎる気がしませんか?

 殿下、ゲームが楽しいの分かるけど、ちょっと落ち着いて?
 そもそもムーンライトフラワーが咲くのって夏至の日だから。結構先よ?

 残すはジョージ・ローリングとエリオット・スペンサーの二人だけ。エリオット様とは馬術の授業で出会いますから、時間的に言うと次の出会いはジョージ様ですか。

 ジョージ様との出会いは、また私がメイ様をイジメた事がトリガーになります。いくら私が頑張ってイジメても空回りするだけだし、困りました。


「お前、イジメるの下手だな! 色々意味不明……」


 横で殿下がお腹を抱えて笑っています。殿下のマネしただけなんですけど、確かにただの寸劇にしか見えませんでしたね。リボン、メイ様の目の前でわざとほどきましたし。
 殿下が笑いながら私のリボンを結んでくれます。いやいや、本当は自分でできますよ。イジメるためにできないフリしただけですから。
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