ヒロインよ、王太子ルートを選べ!
 そう言われてみれば、特に主語はつけていなかったような気もします。だからと言って、そんな勘違いしますか? 振り上げたこぶしを変な方向にかわされて、次の言葉が出てこなくなってしまいました。しばらく黙り込んでいると、殿下が声をひっくり返しながら言います。


「いや、だからその話はもうよくて。何か勘違いしているようだが、俺は特にお前の不幸を願っているわけじゃない。……そんなことより、その鉢植えをなんとかしろ!」


 話を変えてくれてありがとうございます。急に可愛い(・・・)とか言われてごまかされても困るので。そしてまた話は鉢植えに戻るのですね。どんなこだわり? 将来は国王じゃなくて、植木職人にでもなったらどうですか?


「何とかしろと言われても、生徒会室に置けって言ったのは殿下です」
「……俺は、ずっと大切に飾っとけよ、って言ったんだよ!」


 せーとかいしつに飾っとけよ!
 すーとかいしつに飾っとけよ!
 すっとかいしつに飾っとけよ!
 ずっとたいしつに飾っとけよ!

 ……ずっと大切に飾っとけよ!


 耳ー! 私の耳ーっ!! 仕事しろ!
 単なる私の聞き間違いじゃないの。そうか、あれは生徒会費からじゃなくて、殿下が私に個人的にプレゼントしてくれたものなのですか。それは……とりあえず、ありがとうございます。でも、別にそれ、どうでもよくない?

 そんなことより、何かを忘れているような気がします。なんだっけ。


「……あああぁぁっ!」


 せっかく片付けた椅子に、驚いた殿下が突っ込んで倒れます。


「急に大声出すな……!」
「会計帳簿! 鉢植えの費用は生徒会費じゃなかった! エリオット様に言わないと!」


 領収書もらっていないからまだ会計帳簿締めていないはずだけど、とりあえずこの場から逃げ出したい! さようなら殿下! とっとと王宮にでも帰ってください!


「おい、まだ話は……」
「もういいです!話は終わり! 殿下なんて馬に蹴られてしまえ!」


 私は荷物を持って、生徒会室を飛び出しました。最後の方、心の中で思っていたことが口に出ちゃった気もするけど、もういいや!
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