幸せな離婚
差し出された手

翌朝になっても健太郎の機嫌はなおってくれなかった。
作っておいた朝食には手も付けずにコンビニで買うからいらないと言い残して家を出て行く。
「ハァ……」
痛む胃を摩りながら全員分の朝食の片づけを済ませ、洗濯、掃除といつものようなルーティンをこなす。
結婚してから私の毎日は色をなくしてしまったみたい。
これじゃまるでロボットだ。
ただ、同じことの繰り返しで毎日が終わっていく。
「――優花さん」
昼食を食べ終えて二階へあがろうとすると、義母に呼び止められた。
「明日お友達の家に遊びに行くことになったのよ。手土産用意しておいてもらえる?」
「分かりました」
「駅前の和菓子屋さんの水ようかんね。あそこの人気だからすぐ売り切れちゃうの。今すぐ行ってきて?」
「はい」
義母御用達の駅前の和菓子屋には駐車場がない。
家に一台だけある自転車は健太郎が駅まで乗っていってしまった。
となれば20分の距離を歩くしかない。
急いで身支度を済ませて家を出た瞬間、アスファルトの照り返しに思わず目を細める。
午後になりさらに気温が上がったようだ。
塗りたくってきた日焼け止めはきっと意味を持たないだろう。
うだる様な暑さに呼吸をするのもつらい。
早足で歩いていると昨日のメッセージがふと頭に浮かんだ。
健太郎は浮気をしているんだろうか。
結婚してから……?それとも、ずっと前から……?
だから……私を抱こうとしないの……?
でも、あのメッセージだけでは浮気の決定的な証拠にはならない。
きっと違う。私は必死になって自分に言い聞かせた。
15分ほど歩くと尋常ではない汗を噴き出し、呼吸が荒くなった。
少しでも歩く時間を短縮しようと駅近くの公園に入る。
この公園を突っ切ると少しだけショートカットになるのだ。
目のくらむような暑さに息が切れ、思ったように足が動かせない。
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