幸せな離婚
ギシギシと軋む階段に苛々した気持ちがさらに逆なでされる。
時間をかけてわざわざ買いに行ったのに、いらないの一言でかたずけてしまうなんて酷すぎる。
それどころか使えない嫁なんて……。
非難する言葉が喉元まででかかっても私の口から飛び出すことはない。
言えば何百倍になって返ってくるのは分かっているから。
赤の他人同士だった私と健太郎が結婚し、義母と家族になる。
育った環境も価値観も全く同じ人なんてきっと存在しない。
どの夫婦だって互いに少しづつ譲歩し合って我慢しながら関係を築き上げていくんだろう。
でも、この家族は歩み寄る気など一切ない。
健太郎と義母のペースに私が合わせる以外の選択肢がない。
これじゃまるでお手伝いさんだ。二人の身の回りの世話をするだけの存在。
「こんなはずじゃなかったのに……」
部屋に入ると、南側の大きな窓と東側にある小さな窓を開けて扇風機を回す。
倒れ込むように扇風機の前に座り込み、畳んでおいたタオルに手を伸ばしておでこの汗を拭う。
どんなに暑くても昼間にクーラーをつけることは許されていない。
もちろん、面と向かって言われたわけではない。
それでも、常に義母から無言の圧力を感じていた。
結婚というものはこんなにも息苦しいものなんだろうか……。
座っていることに耐えられなくなり床に大の字で寝転び天井を見つめる。
薄汚れた天井の雨漏りした後をぼんやりと見ながら考える。
これが私の望んでいた生活なんだろうか。幸せなんだろうか。
その答えを見つけることはまだできていない。
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