幸せな離婚
瀬戸さんのお宅はすぐに見つかった。
「大きな家……。地主さんかなにか?」
瀬戸と記された表札があるからここに間違いない。
広い敷地には竹藪が鬱蒼と茂っている。
敷地はぐるりと高い塀で囲まれ、木の門扉は外部の人間をシャットアウトするかのように固く閉ざされている。
チャイムを鳴らすも、インターホン自体壊れているのか何の反応もない。
仕方なく木戸に手をかけるとギギィっと音がして扉が開いた。
敷地内は私が想像していたよりもずっと広い。手入れされていないのかあちらこちらで雑草が生い茂り足を踏み入れるのを躊躇してしまう。
生井家のある住宅街とはまるで違う雰囲気だ。
本当にここに瀬戸さんは住んでいるんだろうか。
「あの、すみません。どなたかいらっしゃいませんか~?」
叫んでも返事はない。こめかみから流れ落ちた汗が首筋を伝う。
そのとき、ざざっと音がした。
「――ふく!!待て!」
敷地の奥にある建物のほうから慌てたような低い声が鼓膜を揺らす。
そちらに視線を向けると、雑草の間からなにかが飛び出した。
「ぎゃっ!!」
その場に尻もちをつく。ジンジンっと痛むお尻に顔を歪めていると、それを心配するかのように黒と白の猫が私の体に鼻先をこすりつけた。
「ね、猫……?」
にゃんっと鳴いているであろうその声は少し掠れている。人間で例えるならば酒ヤケしているおじさんみたいな声だった。
見た目もまるまると太っていて愛嬌がある風貌をしている。
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