幸せな離婚
こんな風に主婦がご近所さんとはいえ男性のいる家に上がるのは世間一般的に見れば好ましくないだろう。
昔から真面目過ぎるが長所でもあり短所でもある私。それなのに、瀬戸さんの申し出を断ろうとはしなかったことに自分自身が一番驚いていた。
「ずいぶん広いお宅ですね」
「広さはありますけど、相当古いですよ。築50年以上経ってますし」
部屋ぐらいの大きさがありそうな玄関に足を踏み入れてサンダルを脱ぎ揃える。
「あのっ、家に上がる予定ではなかったので裸足なんです……」
「ああ、気にしないでください。俺も裸足ですから」
瀬戸さんが私の足元に視線を向ける。
「おじゃまします」
いつ塗ったのかも覚えていないぐらい前に塗った淡いピンク色のフットネイルが剥がれかけているのを瀬戸さんに見られた気がして恥ずかしくなる。
『結婚したからって女を捨てちゃダメよ。いつだって旦那に求められる妻じゃなくちゃ』
と義母に事あるごとに言われていたからフットネイルをして少しでも美意識を保とうとした。
でも、日々の忙しさによる疲れにかまけて剥がれているのを知っていながら見て見ぬふりをしていた。
こういうところがいけないのかな。だから、健太郎は私を抱いてくれないんだろうか……。
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