幸せな離婚
「だから、お話しするのは今日限りでなんて言ったんですか?」
「はい。それなのに、一緒にくず餅食べようって誘ってしまってすみません」
「それは構いません。こうやってお話できて楽しいですし」
それに、例え瀬戸さんが幽霊屋敷の住人だと知っていたとしても助けてもらったお礼はしていただろう。
相手を見て態度を変える人間にはなりたくない。
「瀬戸さんは在宅でできるお仕事をしてるんですね」
「はい。一応、作家をしています」
「作家!?」
思わず叫ぶと、瀬戸さんは私の反応を楽しむように笑顔を浮かべる。
「だから、家の中にたくさんの本があったんですね……!うわぁ……すごいなぁ……」
「そんなことありません。作家とはいえ、売れっ子作家でもないですし」
「いやいや、すごいですよ。うわぁ、こんな近くに作家さんがいるなんて信じられません」
「そんな風に言ってもらえると照れ臭いけど嬉しいです」
穏やかな人だなと思った。纏う空気がやわらかいのだ。
しゃべり方とか笑い方とか仕草とか、一緒にいて心地が良い。
端正な顔立ちをしていてかっこいいとか可愛いとかそういう言葉では言い表せない魅力が瀬戸さんにはあった。例えるならば、美しい。
男性なのに体の線も細いし肌だってつるりとしていて毛穴一つないように見える。
普段家で仕事をしているせいか私なんかよりもずっと肌だって白い。
歩いてきたせいで汗だくで前髪をおでこにくっつけている私とは違い、瀬戸さんは涼し気だ。
公園であった時もまるで暑さを感じないんじゃないかと思うぐらいに涼しい顔をしていた。
本人は自分のことをヤバい要素しかないと卑下しているけど、私にとって瀬戸さんは清潔感の塊でしかない。
瀬戸さんのような男性を女性はきっと放っておかないだろう。
< 27 / 60 >

この作品をシェア

pagetop