幸せな離婚
「じゃあ、今日隣町のショッピングモールへ行ってきてもいいですか?」
「あらっ、いいわね。健太郎も誘って三人で行きましょ。私、バッグが欲しいのよ」
「え……」
「さっさと仲直りしなさい。二人の仲を私が取り持ってあげるから」
それってありがた迷惑なんです、という言葉が喉元まで出かかってグッと言葉を飲み込む。
義母が私たちの仲を取り持とうとしてうまくいったためしはない。
健太郎はショッピングが好きではない。
自分の買い物に人を付き合わせるのは好きだけど、人の買い物に付き合うのは嫌がる。
付き合わせればどうなるかは火を見るよりも明らかだった。

隣町の大型ショッピングモールは週末ということもあり家族連れなどの買い物客で混雑していた。
3階建ての建物の中には300以上の専門店が軒を連ね、端から端まで歩くのにも苦労する。
暑いこの時期は涼しい店内を歩くことで運動しながらショッピングも楽しめると客が集中して訪れるようだ。
駐車場に車を停めるとわき目も降らずに2階に降り立った義母はお目当てのショップがある方向を指さして歩を進める。
「あっち!!あそこのお店に行きましょ!」
張り切る義母のあとを歩いていると、「なあ」と健太郎の不機嫌な声がした。
「朝のこと俺まだ許してないんだけど」
私を横目で睨みつける健太郎に心の中でため息を吐く。
「……ごめん。これからはその日の朝聞いてから作るようにする」
ショッピングモールに来てまで言い合いなどしたくない。
仕方なくこちらが折れると、健太郎は露骨にため息を吐いた。
「そういう強情なところ直した方が良いと思うけど。今朝だって言い返したりせずに「わかったよ」って言ってくれれば俺だって怒らずに済んだじゃん」
「……そうだね」
「言い返されると俺だってケンカ売られてんのかなって思ってイライラするし。それぐらい先回りして考えてくれよな」
健太郎の言葉に黙って頷く。
「つーか、なんで俺が買い物に付き合わなくちゃなんないわけ?お前が母さんに付き添えばよかっただけじゃん」
「でも、お義母さんがどうしても三人でっていうから」
「チッ。めんどくさ」
お義母さんに直接文句を言わずに、私に不平不満をぶつける健太郎に心底嫌気がさす。
「あっ、ここよ!!」
高級バッグが並ぶお店に入っていく義母の背中を追う。
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