幸せな離婚
「何かお探しですか?」
「ええ。バッグを探してて。何かおススメあるかしら?」
「実は先週入荷の新作がありまして……。こちらへどうぞ」
すかさずやってきた店員と義母の後に続いて店の奥へ歩を進めると、「俺、あっちの椅子に座ってるから」と言い残して店から出て行った。
エスカレーターの近くに置いてある椅子にふんぞり返るように座ってスマホを弄る健太郎の姿に無性に腹が立つ。
だから一人で買い物に来たかったのに……。
結局、優柔不断の義母の買い物は1時間もかかり、心底ぐったりしながらレジへ向かう。
「そういえば、健太郎は?」
「あっちの椅子に――」
ようやく健太郎がいないことに気付いた義母。私は椅子のある方向を指差す。
言いかけて目を凝らす。
健太郎の前には見知らぬ女性と2,3歳ほどの子供がいた。
知り合いなのか健太郎の表情には笑顔が浮かんでいる。
「……あの女、誰かしら。ちょっと優花さん、先に行って様子を見てきてちょうだい」
「わかりました」
店を出て三人のもとへ向かう。急がないといけないのに、なんだかうまく足が動かせない。
顔が強張り心臓の鼓動が大きくなる。
『けんちゃん』
届いたメッセージが蘇り、頭の中がカッと熱くなった。
健太郎との距離があと数メートルに迫り、声をかけようとした瞬間健太郎が私の存在に気が付いた。
その途端、健太郎は眉間に皺を寄せて女性に気付かれないようにわずかに顎をくいっと持ち上げて私に指示を出す。
――あっちにいけ。
私は呆然とその場に立ち止まった。
声をかけるなっていうこと?どうして?
頭の中が混乱し、身動きが取れなくなる。
店内を流れる聞き覚えのあるBGMも子供のはしゃぎ声も、楽しそうなカップルの笑い合う声も。周りの雑音のすべてが消え失せる。
たった一人、この世界に取り残されてしまったみたいな孤独が全身を包み込む。
「ええ。バッグを探してて。何かおススメあるかしら?」
「実は先週入荷の新作がありまして……。こちらへどうぞ」
すかさずやってきた店員と義母の後に続いて店の奥へ歩を進めると、「俺、あっちの椅子に座ってるから」と言い残して店から出て行った。
エスカレーターの近くに置いてある椅子にふんぞり返るように座ってスマホを弄る健太郎の姿に無性に腹が立つ。
だから一人で買い物に来たかったのに……。
結局、優柔不断の義母の買い物は1時間もかかり、心底ぐったりしながらレジへ向かう。
「そういえば、健太郎は?」
「あっちの椅子に――」
ようやく健太郎がいないことに気付いた義母。私は椅子のある方向を指差す。
言いかけて目を凝らす。
健太郎の前には見知らぬ女性と2,3歳ほどの子供がいた。
知り合いなのか健太郎の表情には笑顔が浮かんでいる。
「……あの女、誰かしら。ちょっと優花さん、先に行って様子を見てきてちょうだい」
「わかりました」
店を出て三人のもとへ向かう。急がないといけないのに、なんだかうまく足が動かせない。
顔が強張り心臓の鼓動が大きくなる。
『けんちゃん』
届いたメッセージが蘇り、頭の中がカッと熱くなった。
健太郎との距離があと数メートルに迫り、声をかけようとした瞬間健太郎が私の存在に気が付いた。
その途端、健太郎は眉間に皺を寄せて女性に気付かれないようにわずかに顎をくいっと持ち上げて私に指示を出す。
――あっちにいけ。
私は呆然とその場に立ち止まった。
声をかけるなっていうこと?どうして?
頭の中が混乱し、身動きが取れなくなる。
店内を流れる聞き覚えのあるBGMも子供のはしゃぎ声も、楽しそうなカップルの笑い合う声も。周りの雑音のすべてが消え失せる。
たった一人、この世界に取り残されてしまったみたいな孤独が全身を包み込む。