幸せな離婚
「――健太郎」
斜め後ろからしたその声で、ようやく私は現実世界に戻ってこられた。
義母の声に健太郎と女性が一斉に私達のいる方向へ視線を向ける。
「なにぼんやりしてるの」義母は私の腕を掴み、健太郎たちのいるところまで引っ張っていく。
女性は私と義母の顔を交互に見つめたあと、ハッとしたような表情を浮かべた。
Aラインのふわりとした黒色の袖なしワンピースに身を包んだ細身の女性。
カンカン帽に黒色のリュックサックを背負い、足元は同色のスニーカーですっきりとまとめられている。
二の腕には余計な贅肉が一切ない。
『けんちゃん』再びあの文面が蘇って私は必死に両足を踏ん張った。
この人があのメッセージを送ってきた相手……?
「初めまして、私生井さんと同じ会社で働いている小石川と申します。先程、たまたまお会いして……。佐奈、ご挨拶して」
「こんにちは」
佐奈ちゃんがぺこりと頭を下げる。
ママと同じカンカン帽をかぶった佐奈ちゃんがお行儀よく挨拶をした。
「初めまして。いつも健太郎がお世話になってます。健太郎の母です。それで、こっちがうちの嫁ね」
義母の言葉に続けて私も頭を下げた。
「初めまして。妻の優花です。主人がいつもお世話になっております」
「いえ。いつも生井さんには助けて頂いているんです。仕事も出来て、こんなに素敵で美人な奥様がいらっしゃるなんて。生井さんは幸せ者ですね」
「ははっ、そんなお世辞辞めてくれよ。小石川さんのほうがよっぽど素敵でしょ。フルタイムで仕事して育児と家事までやって。しかも、今妊娠中。うちは子供もいないし、妻は三食昼寝付きの悠々自適な専業主婦だし。なあ?」
「……そうね」
話を私に振った健太郎にぎこちなく笑いながら頷く。
この人はいつもこうだ。
誰かに私が褒められると、それを全力で否定する。
そして私と比較して褒めた相手を持ち上げていい気分にさせてあげる。
すると、小石川さんはちらりと私をちらりと見やった後、健太郎に言った。
斜め後ろからしたその声で、ようやく私は現実世界に戻ってこられた。
義母の声に健太郎と女性が一斉に私達のいる方向へ視線を向ける。
「なにぼんやりしてるの」義母は私の腕を掴み、健太郎たちのいるところまで引っ張っていく。
女性は私と義母の顔を交互に見つめたあと、ハッとしたような表情を浮かべた。
Aラインのふわりとした黒色の袖なしワンピースに身を包んだ細身の女性。
カンカン帽に黒色のリュックサックを背負い、足元は同色のスニーカーですっきりとまとめられている。
二の腕には余計な贅肉が一切ない。
『けんちゃん』再びあの文面が蘇って私は必死に両足を踏ん張った。
この人があのメッセージを送ってきた相手……?
「初めまして、私生井さんと同じ会社で働いている小石川と申します。先程、たまたまお会いして……。佐奈、ご挨拶して」
「こんにちは」
佐奈ちゃんがぺこりと頭を下げる。
ママと同じカンカン帽をかぶった佐奈ちゃんがお行儀よく挨拶をした。
「初めまして。いつも健太郎がお世話になってます。健太郎の母です。それで、こっちがうちの嫁ね」
義母の言葉に続けて私も頭を下げた。
「初めまして。妻の優花です。主人がいつもお世話になっております」
「いえ。いつも生井さんには助けて頂いているんです。仕事も出来て、こんなに素敵で美人な奥様がいらっしゃるなんて。生井さんは幸せ者ですね」
「ははっ、そんなお世辞辞めてくれよ。小石川さんのほうがよっぽど素敵でしょ。フルタイムで仕事して育児と家事までやって。しかも、今妊娠中。うちは子供もいないし、妻は三食昼寝付きの悠々自適な専業主婦だし。なあ?」
「……そうね」
話を私に振った健太郎にぎこちなく笑いながら頷く。
この人はいつもこうだ。
誰かに私が褒められると、それを全力で否定する。
そして私と比較して褒めた相手を持ち上げていい気分にさせてあげる。
すると、小石川さんはちらりと私をちらりと見やった後、健太郎に言った。