幸せな離婚
「瀬戸さん……」
ああ、マズい。
自分でもどうしようもなかった。
まるで思春期のような甘酸っぱい感情が胸の奥底から沸き上がってくる。
それは恋の予感めいたものだった。
困ったことに学生時代、一度もしゃべったことのない先輩に抱いたそれとはまるで重みが違う。
この感情は甘酸っぱいだけでなく、胸を掻きむしりたくなるほどに息苦しい。
旦那がいるのに、異性に対してそういう感情を持つのはおかしいことだと自分を戒める。
きっとこの暑さのせいで理性を失っているだけ。
陽炎の中から現れた瀬戸さんに会えて嬉しいと思うのも、この感情も。
全部きっとこのうだる様な暑さのせいだ。
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