幸せな離婚
目を左右に泳がせて必死に言い訳を考えているようだ。
「何言ってんだよ。具合悪いんだろ?」
「少し休んだからもう治ったよ」
「人ごみになんて行ったらもっと具合悪くなるぞ?」
健太郎はベッドサイドまで歩み寄ると、横になるように促してご丁寧にタオルケットまでかけてくれた。
私は知っているのだ。
献身的な夫ぶっている健太郎は、妻を欺いて可愛いみーちゃんと花火大会へ行き浴衣を脱がせようとしていることを。
「たまにはゆっくり休めよ。帰り、何か食べたいもの買ってきてやるから。そうだ、コンビニで優花が好きなみかんゼリー買ってくるよ」
「ゼリーなんていらない」
いつも聞き分けの良い私に訝し気な目を向ける健太郎。
「だから、花火大会にいかないで。今日は一緒にいて」
半ば賭けのようなものだった。
もしも私の願いを聞き入れてくれればまだ私に気持ちがある。
でも、もしそうでなければ……。
「なんで?友達と遊んじゃダメなのかよ」
健太郎の目が怒りに吊り上がった。
……それがすべてだった。
「そうじゃないけど」
「いってらっしゃいってどうして気持ちよく送り出せないわけ?気分悪い!」
健太郎は吐き捨てるように言うと、音を立てて部屋を後にした。
部屋の中に一人残された私はベッドの上で体を丸めた。
言い返せなくなるとそうやって一方的な言葉を吐き捨てて出て行ってしまう。
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