幸せな離婚
「優花はやりたいこととかないの?」
「私……たくさんの野菜を育てたい」
「野菜?」
頭に浮かんだのは、そんなに大きくない敷地できゅうりやナス、トマトなどの野菜を育てることだった。
ホームセンターに売っているレンガを使って手作りの花壇も作ってみたい。
「そう。家のプランターでトマトを作ったの。そしたら、なんかハマっちゃって」
「いいじゃん!できたらおすそ分けしてよ!」
「もちろんだよ。でも、素人が作ったトマトだし皮も固いし、酸っぱいかもよ?」
義母がそう言っていた。
「そういうのって味どうこうじゃなくない?優花が手塩にかけて大事に作ってくれた野菜だもん。なんでも嬉しいって」
あの人も……瀬戸さんも言葉は違えど同じようなことを言ってくれた。
健太郎も義母も、私の言葉をいつも否定する。それに慣れ過ぎてしまっていたのかもしれない。
否定されるたびにどんどん自信を無くして、言いたいことも言えず喉の奥に飲み下す。
そうしているうちに自分が何を言いたいのか、どうしたいのかが分からなくなっていた。
「ありがとう。絶対、おすそ分けするから」
目頭が熱くなってギュッと目をつぶると、ポンポンッと頭を叩かれた。
目を開いて薫に視線を向ける。
「あたしはいつだって優花の味方だよ」
「薫……」
「それと、経験者からのアドバイス。離婚したからって不幸せになるわけじゃない。幸せは自分の手で探し出して勝ち取れ、以上」
薫の言葉が渇いた土を潤す水のように心地よく胸の中に広がっていった。

< 60 / 60 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:7

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
なぁな/著

総文字数/100,534

ファンタジー76ページ

第5回ベリーズカフェファンタジー小説大賞エントリー中
表紙を見る
音無くんはあたしにだけ甘い
なぁな/著

総文字数/19,159

恋愛(学園)5ページ

表紙を見る
イジメ返し―連鎖する復讐―
なぁな/著

総文字数/144,367

ホラー・オカルト252ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop