色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅰ
「大丈夫ですか」
 そう言って、テイリーは私の手を引っ張る。
「何で、いるの?」
 驚いて、そう言うと。
 テイリーは意地悪そうに笑った。

 周りに立っているモブ共はテイリーを見て「一年生? 間違って入ってきた?」と騒ぐ。
「このパーティーは部外者以外、立ち入り禁止なんだが?」
 呆れたように、ヒューゴがテイリーに向かって言った。
 私とテイリーが親しいのを知っているのか。
 ヒューゴが面倒臭そうな顔をしている。

「君がこの女を(かば)ったとしても、この女が捕まるのは時間の問題だ」
 本当に目の前にいるのは、ヒューゴなのだろうか。
 さっきから、「この女」とか「貴様」と言われている自分が悲しい。

 体育館がザワザワと様々な人間の声で混ざり返る。
 こういう時、先生は助けてくれないんだなと思うと。
 テイリーが助けてくれたとしても、私はこのまま警察に連行される・・・

 テイリーと私は幼なじみだ。
 出会った時、私は中学生。テイリーは小学生だった。
 平民出身であるテイリーが何でこの学校に入学してきたのかは不思議だったけど。
 知り合いが学校にいてくれてラッキーと思ったくらいだった。

 身長168cm。
 瘦せ型、褐色の肌に榛色(はしばみいろ)の瞳。
 黒髪に、どういうわけか今日はオールバックにしている髪型。
 普段は眼鏡をかけているけど、今日はかけていない。
 制服を着ると、足はそんなに長くないのがバレてしまう。
 顔面偏差値はいたってフツーの16歳。
「ヒューゴ先輩は、そんなことを言える立場なのでしょうか?」
 ニッと笑ったテイリーだけど。
 怒っているのがわかる。

 ヒューゴは「めんどくせー」と低い声で呟くと。
「言える立場だから、言ってるんだけど」
 と吐き捨てて、アミラの肩をぐっと自分の身体に寄せた。

 ああ。
 見たくないよ、ヒューゴと泥棒猫のツーショットなんて。
 思わず、くらっとよろめいていると。
 テイリーは、こっちをちらりと見て。
「ヒューゴ先輩とアミラさんは、この卒業パーティーをぶち壊しました。…連れて行ってください」

「え?」
「へ?」

 ヒューゴとアミラが同時に声を出したかと思うと。
 体育館の入口から、男性の警察官3名と女性の警察官2名が入って来た。
 モーセの海割り…のように。
 警察官を見るや否や、生徒たちはすっと端っこに寄って一本の道が出来上がった。
 あ、もう捕まるんだ。
 と、脅えると。
「きゃっ」
 警察官はアミラを捕らえ、
 ヒューゴの両腕を拘束した。

「は…?」
 私よりも早く。
 周りのモブ共が「どういうこと?」と口に出す。
 え、どういうことと思ってテイリーを見る。

「この世は所詮、権力ですからね」
 にっとテイリーが笑うと八重歯が見えた。
 テイリーが制服のポケットから出したメダルを見て。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 と叫んでしまった。
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