色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅰ
 テイリーとは、週末になると礼拝堂で顔を見合わせていた。
 私が中学1年ときからだから、もう5年の付き合いになる。

 テイリーは朝から晩まで本を読んでいた。
 私は朝から晩までピアノを弾き続けていた。
 特に邪魔はしてこないので、まあいいかと思った。

 私がテイリーの知っていることと言えば。
 年齢は2つ年下で。
 誕生日が同じで、家が近所というだけだった。

 テイリーはいつだって、安っぽい服を着ているから。
 ああ、平民かあと思っていたのに・・・

 王族…?
「何で、そのメダル持ってるの?」
 涙を拭うと。
 テイリーは再びポケットからメダルを出した。
「偽物じゃないよね?」
「…偽物出したら、虚偽の罪で俺が捕まるよ」
 低い声でテイリーが言う。

 せっかくメイクしたのに。
 泣いたせいで顔はぐっちゃぐちゃ。
 でも、どうだって良かった。

 庭園にある噴水が、ライトアップされる。
 パーティーは再会されたのだろうか。
 微かに、音楽が聞こえてくる。
「王族…なの?」
「だったら、どうする?」
 怒ったように、テイリーが言うと。
 まさか、テイリーが王族だったとはとショックを受ける。
「私、さんざん。君に対して失礼なこと言ってきた」
「何だよ、今更」
 にっとテイリーが笑う。
 
 平民のくせにとか。
 ちょっとはお洒落しなさいよ…とか。
 数えきれないほどの失言。

 めまいを感じて、噴水の前にあるベンチに座り込む。
 テイリーも黙って隣に座り込む。
「現実なんだよね、さっきの出来事って」
 婚約者に、婚約解消を言い渡され、警察に突き出すと言われてしまった。
 テイリーが助けてくれたとはいえ、私の人生はもうおしまいだ。
 泣いたからといって、もう。
 どうすることも出来ない。
「…今まで、ありがとう」
 ぐっちゃぐちゃの顔で言うのも恥ずかしいけど。
 まずは、お礼を言わなきゃ。

 今日の断罪イベントは、すぐにでも親に知れ渡るだろうし、ヒューゴの家族にも耳に入るだろう。
 私は家に泥を塗った罪で幽閉でもされるのかな…

 ボロボロと泣いていると、テイリーが「はあ…」と重たいため息をついた。
「貴女の人生、これで終わりじゃないんですから。何ですか、『今までありがとう』って」
「でも、私はヒューゴからも、きっと学校からも訴えられる・・・」
「本気で言ってます? 貴女(あなた)、何も悪いことしてないでしょ。元はと言えば、あの男が婚約者いるにも関わらず浮気して卒業パーティーで貴女を突き飛ばして断罪イベント始めたのが間違いなんですから!」
 急に敬語? と思いながら、テイリーに驚いた。
 テイリーはどっちかと言えば、ヒューゴと仲良しだと思っていたからだ。
 テイリーはそれほどまでにゲームが好きってわけじゃないけど。
 ライトノベル好きのヒューゴとよく、小説の話をしているとは聞いた。

「テイリーは、ヒューゴの味方じゃないの?」
「は? 俺は誰とも仲良くならない主義なんで」
 キツい一言に黙り込む。
 テイリーは昔から、人嫌いだった。
 本人を目の前にするとニコニコするくせに、影では滅茶苦茶に悪口を言う人間だった。
 結果、同い年の友達がいないので先輩たちと遊んでいる姿をよく目にしていた。

 口の悪いテイリーと私はどういうわけか相性が良かった。
 お互い、人前では猫を被って生きてきた。

 黙り込むと、テイリーも黙り込んだ。
 音楽が風に乗って聞こえてくる。
 冷たい風が頬に当たると。
 だんだん、イライラしてきた。
「なんで、私がこんな目に…?」
「泣いたかと思えば次は怒りですか。貴女らしいですね」
 冷静に突っ込みを入れるテイリー。
「あのブス女、殴っておけば良かった」
「…殴ったら、それこそ連行ですよ」
 はぁ…とため息をついてテイリーが言った。
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