色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅰ

2,蜜月

 テイリーの住んでいる屋敷に戻って。
 夕食をゆっくりと食べた後。
 部屋に戻って、お風呂にゆっくりと浸かった。
 湯舟は入浴剤が入っていて、甘い花の匂いがする。
 今日のデートについて思い返しながらも。
 ここ数日の出来事が色々ありすぎて、頭がついていってない。

 結局、婚約者だったヒューゴを憎むことができない。
 この先も彼を嫌いにはなれないんだろうな。
 あの女を憎むことで、どうにか保つことが出来ている。
「あの女が警察に捕まって、国外追放でもされればいいのに」
 私は嫌な奴でいい。
 嫌な奴だとしても、幸せにはなりたい。
 他の人間なんてどうだっていい。


 お風呂を出て鏡台の前に座って化粧水と乳液を顔に塗って。
 ドライヤーで髪の毛を乾かした後。
 …行くしかないよなあと呟いて、ゆっくりと立ち上がる。

 部屋を出ると、廊下はひんやりと冷たくて誰の姿もない。
 お手伝いさん達は一階で寝泊まりしているのかなあと思いながらも廊下を歩く。
 静かな夜。
 ドアをノックすると、「はい」と返事をもらったのでドアを開けた。
 テイリーは本を読んでいた。
 昼間とは違ってTシャツにスウェット。
 こっちのテイリーのほうが普段見慣れているテイリーなので安心してしまう。

 私は勝手に中に入る。
 本に集中していたテイリーだったけど、こっちを見て驚いたような顔をしている。
「どうしたんですか?」
「…夜這いしに来た」
 アハハと笑って答えると、凍り付いたようにテイリーの表情が固まった。
 フリッフリのレースをあしらったネグリジェ姿の私は絶対に美しい。
 これで、何度もヒューゴを落としてきた。

 10秒ほど固まっていたテイリーだったが、「どうぞ」と言ってベッドに誘導してくる。
 テイリーの部屋はベッドと机、椅子しかない部屋だ。
 別宅と言っていたから、物が少ないのかなあと思いながら。
 ベッドに座るとテイリーも横に座った。
「本当に、いいんですか?」
 (はしばみ)色の目が不安げに訴えている。
「いいんですかって、君が思い出が欲しいって言ったんでしょう?」
 テイリーの手を掴んで、顔を近づけると。
 テイリーは顔を離した。
「自分で脱いだほうがいいかな?」
「……」
 テイリーは黙ってこっちを見る。
 傷ついたような顔をしていると思った。
 それとも憐れんでいる顔なのだろうか。
 てのひらをテイリーの頬にあてる。
「なんで、迷ってるの? 私が年上だから?」
「…貴女は真の意味で悪女だ」
 テイリーに抱きしめられた。
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