White Snow
泣きつかれるまで泣いたあと、前野君に取っ捕まって、二次会のカラオケ屋さんに連れていかれた。


お手洗いに立った時。
鏡に映る自分の顔を見て、目が充血し、少し腫れていつことに気が付いた。
まあ、一次会でたくさん泣いてるし、お酒も呑んでるから、こうなっても仕方ないか。
薄暗いカラオケボックスの室内の上、みんなが酔っ払っているのだから、このくらい気にする人もいないだろう。
まして、一次会で泣きまくったことはほとんどの人が知っている。
恥ずかしいが、お酒の席の泣き上戸ってことで勘弁してもらおう。

自分自身に言い訳をして、部屋に戻ろうと、お手洗いから出た。

少し行ったの壁に、彰が寄りかかって立っていた。
スマホをいじる彰の前を通らないと部屋には戻れない。

目の前を通り辛くて立ち止まっていると、彰が顔を上げた。

私をじっと見ている。


鞄もコートもスマホも財布も鍵も全部、部屋にある。
手にあるのはポーチだけ。

逃げ出すわけにもいかない。

意を決して、彰の前を通り過ぎることにした。

緊張する。
手と足が一緒に出ないことだけを気にして一歩一歩歩く。
すれ違う瞬間。

「智花」

「!」

呼び止められて、足が止まる。


今、『智花』って言った?
『智花』って言ったよね?

今まで一度も会社で名前で呼ばれることはなかった。
もちろん、飲み会でもなかった。

それが今、ここで。このタイミングで『智花』とな?

「大丈夫か?」
「何が?」

彰は私を見ている。
私は彰を見ることなく、まっすぐに前を見つめている。

「さっき、泣いてただろ?」
「あき・・・中村さんのために泣いたわけじゃないから」
「ああ。分かってる。ごめん」
「謝らないで!」

平気なふりができなくて走って部屋に戻った。


呑んでいたジーマの残りを呷った。
「ふー---!」
口の端を手の甲で拭く。

「どしたの?」
北山さんに心配され、
「悔しい!」
「え?」
「わかんないけど!!なんか!もう!いろいろと悔しいっ!!」

「よし!飲もう!」
「歌おう!」
と、そこからはなぜか失恋ソングをみんなにガンガンに歌われた。
私も一緒になって失恋ソングを歌った。

もう、何もかもが嫌だ!

心配してくる彰も。
彰が会社の飲み会で名前を呼んでくることも。
彰が彼女の名前を呼ぶことも。
彼女がカップルクラッシャーなことも。
歌っている私を見ている彰の顔が何か言いたげなところも。
別れて4か月もたつのにまだ未練たらたらな自分自身も。
クリスマスツリーも。
失恋ソングも。
なにもかもが・・・


「だいっきらいだー--------!」


マイク越しに思いっきり叫んだあたりで私は記憶を失った。





翌朝。
いや、翌昼。
気が付くと私は自分のマンションのベットの中でちゃんと眠っていた。



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