White Snow
「まずは前野君から晴久とよんでいただきたい」
「晴久?」
「はい。長かったらハルでいいよ。男連中『ハル』って呼んでるし」
「ハル?」
「はい」
「うーん。やっぱり晴久でもいい?」
「もちろんいいよ。でも言いにくいでしょ?」
「ううん。それにみんなと違うほうがよくない?」
男友達とはいえ
「みんなと同じ『ハル』より『ハルヒサ』と呼びたい」
というと、前野君はパッと離れて私の顔を覗き込んだ。
「ま、まえのくん?!」
距離の近さと急な動きに驚いて声が上ずってしまった。
「・・・戻ってる」
「何が?」
「前野君に戻ってる」
笑いながらそっと背中に左手をまわされ、二人の距離が縮まった。
そのまま前野君の胸に頭を軽くあてられ、ぽんぽんと頭を撫でられる。
心地いい・・・・。
夜景を見ながらふと我に返る。
なんか、前野君、女慣れしてるなあ。
今まで気にしてなかったけど、イケメンだ。
見た目も良くて、仕事も出来る上にこの手の速さ。
それなのに浮いた話をこれまで全く聞かなかったのはなぜだ?
そんなことを考えながら上を向き、じーっと見つめる。
すると、前野君の顔が近づいてきた。
「は、はやい!」
と胸を押すと、
「あれ?キスしてほしいのかと思った」
とケロリと言った。
「違う!ゆっくり!」
顔が赤くなるのを感じて、もうっと、回れ右をして背を向けた。
柵に手を当て、眼下に広がる夜景を見渡して呟いた。
「ほんと、きれいね」
「うん。智花に見せたかった」
「連れてきてくれてありがとう」
晴久はその手を柵に触れる私の手の両側に置いた。
背中が晴久の胸に触れている。
息が耳にかかる。
ドキドキしながらじっと夜景を眺めた。
雪のように溶けてしまった恋があった。
晴久と作り出す恋が、少しずつ始まろうとしていた。