White Snow
「ごめん。泣きすぎた」
私の涙と流れた化粧品でドロドロになってた前野君のスーツをハンカチで拭きながら謝った。
「気にしなくてもいいですよ」
「そうもいかないよ」
「どうせ安物です」
「・・・前野君」
「?」
「いいやつだね」
「よく言われます。でもそれ、失礼だからね」
「?」
「いい奴止まりってことでしょ?男としてどうなんだって話ですよ」
「あははははは」
「その笑いは肯定を意味してますよね」
「あははははは」
「怒りました」
低い声で言われ、慌てて前野君の顔を見る。
「え?ごめん!」
ちゅっ。
左目の横にキスされた。
「!?」
驚く私と対照的に、にやっとちょっと悪い顔をした前野君は
「これで許してあげます」
私はボッと顔が熱くなった。
そんな私を気にすることもなく、ベンチから立ち上がってダウンコートのファスナーを上げる。
「さ、帰りましょうか。家どこですか?」
「く、楠町」
「俺、江原だから通り道ですね」