HANA
No.1
 TV画面に、「予約曲/歌手名/ブリーフ・アンド・トランクス」と表示されたのを確認して、空のグラスを手に立ち上がる。私はいつも絶妙のタイミングでコーラを飲み干す。まさに職人技。匠のストロー捌き。


「ドリンクバー行ってくるけど」
「ハナ、私メロンソーダ飲みたい」


 オッケー、と返事をしながらドアを開けると、涼しい風が肩に羽織ったカーデガン越しに心地よい。雑居ビル内の澱んだ空気が新鮮に感じるほど、私の呼吸器はこの三時間、体臭と香水とフリスクと各種デオドランド・スプレーとマルボロ・メンソール・ライトとその他諸々出所不明の臭いで侵され続けそろそろ限界だ。


 盛りがついた女子高生四人入りのカラオケボックスは、暑くて苦しくて臭くて酸っぱい。ひょっとして誰か発酵しかけているのかしら(そうだとすれば多分リツだ)、と考えていたら、アウシュヴィッツ、シュールストレミング、ブロッケンジュニア、くさや、そんな単語が次々と頭に浮かんでは消えた。

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