優しい微笑みに騙されて

◆ ◇ ◆

最初にいた場所に戻ると、かなりの人数がもう既に集まっていた。相変わらず、男は不気味な仮面をつけたまま立っている。そして、その後に壁によりかかるように立っている男性を見つけて私は一瞬、思考が停止した。
(レン…さん？)
間違いなく、そこにいるのはレンさんだった。つまり、あれはもしかしたら…夢ではないのかもしれない。そう考えると考えるだけで恐ろしくなってくる。
「今から明日の朝までは休憩時間☆その間人を殺したらルール違反だよ☆じゃあ自由行動スタート☆」
不気味な男がそう言ったと思うと、その男が私達の方に向かって歩いてくる。他のグループはそんな様子を全く気にせず、それぞれバラバラな方向に散らばっていた。
「やぁ☆改めて喋るのははじめましてだね☆」
仮面のせいで不気味に見えるが、少し仮面の穴から見える目はとても綺麗な栗色の瞳をしていた。
「何のようだよ」
咲が警戒したような口調でそう問いかけ、私達を守るように前に出る。
「あなたに用はないんですよ☆月白咲さん☆私が用があるのは堀崎ゆかさんのみです☆」
「はぁ？誰が、あんたなんかをゆかと近づけるかよ」
咲が男の言葉にキレ、そう言い返す。少し、雲行きがあやしくなってきた。
「あなたが許す、許さないの問題ではないんですよねぇ☆」
男はわざと咲を挑発するような口調で楽しそうにそう呟いた。やばい。幼馴染だからわかる。咲はそろそろガチギレする。
「後ろから、失礼するね」
突然、前からではなく、後から私の腕が引っ張られる。気づけば私はレンさんの腕の中にいた。前にばかり気が取られていたせいで、後なんか考えてもいなかった。きっとそれは全員同じだろう。
「お前、いつのまに」
咲も驚いたように口を開き、私の方に近づこうとする。
「レン様へのお前呼びですか☆それはそれは不敬ですね☆今この場で滅多刺しにしてやろうか」
突然、男の口調が変わり、咲の喉元に刃物を当てていた。早すぎて何も見えなかった。いつ、それを出したのかさえもわからない。咲も呆然としている。
「ゆか」
レンさんが私の耳元でそう呟く。
「ユカ、ちょっとお話したいんだ」
レンさんの目線の先には咲がいる。紛れもない脅しだ。私が拒絶すれば、咲を殺すと言っているような物だ。私は、その脅しに、従う以外の選択肢はなかった。