優しい微笑みに騙されて

#6

◆ ◇ ◆
「なぁゆか、全て話してくれないか？」
私は仮面男の行動が謎すぎて、気づいたらゆかにそう訊ねていた。私の言葉を聞いたゆかは、私達の顔を見回すと軽く微笑んだ。
「私にも、いまいちよくわからないんだ」
ため息混じりにそう答えたゆかは、昔、一度だけ見た、完全に恐怖に歪んだ顔をしていた。
「あの、青銀髪のレンさんが…」
「楽しそうな話をしているね」
ゆかが何かを決意した様に話し始めた瞬間、私の真後ろから遮る様に声が響く。後を向くと、例の本人、レンという男がいた。ゆかは、急にビビったように数歩後に後退る。やけにビビっている。何かをされたのかもしれない。
「ねぇ、君たちのグループ、1番優秀だから1人ぐらいかけていても問題ないよね？」
レンという男が急にそんな意味深な言葉を呟く。何を企んでいるつもりなのか、すぐにわかった。私達の誰かを、殺す、もしくはグループから外すつもりだ。
「君、ムカつくんだよね」
え……？気がついた時には、レンという男に地面に押し付けられている。そして思いっきり、足で踏まれる。
「ウ゛ｯ」
変なうめき声が漏れる。やばい、圧倒的な力の差で勝てそうにもない。レンという男が足でぐりぐりと押してくる。かなり苦しいし、痛い。やばい。流石にやばい。
「レンさん…咲を離してください。理不尽です。私達が優秀なのは、私達が頑張ったからです」
微かに震えている声で、ゆかがそう言った。
「ゆかの言う通りですよ。俺たちが努力して得た結果を、貴方が理不尽に変えないでください」
「わ、私の大切な咲ちゃんを、離してください」
「そんなことやって、恥ずかしくないんですか？」
みんなが、私を守るためにレンに文句を言っている。なんて友達に恵まれているんだろうか。
「申し訳ないけど、ユカ以外に発言の許可渡してないんだよね」
レンはそう言うと不気味に微笑む。これ以上口を開くなと、脅されている様な気分になる。言葉一つで、周りの空気をぐるっと変えられる…。私達じゃ、到底敵わない。
「ユカ、今そこで手ついて土下座してみてよ。こちら側に着くから許してくださいって謝ってみてよ。そうすれば、許してあげようかな？」
レンは楽しそうに笑ってそう呟いた。ゆかは完全に固まっている。そりゃあそうだ。突然土下座しろなんて言われて、速攻でやる人なんて滅多にいない。
「ねぇ、ほらどうしたの？やらないの？咲さんが可哀想だよ。ずっと苦しんでるのにね」
挑発をする様に、そう話すレンは、完全に悪魔に見えた。完全に狂ってる。ゆかの反応で遊んでる。楽しんでる。
「ごめんなさい…私は、咲を見放すのも嫌で、レンさん達に協力するのも嫌です。私は…」
「あぁもういいや。つまらない」
ゆかの話の途中でレンが急に私に置いていた足に力を込めてくる。
「ウザいなぁ。本当にうざい。君たち全員消えてしまえば良いのに」
一瞬、何をされたのか、わからなかった。ただ、ゆか達4人が大きく目を見開いたのだけが見える。突然、腕に猛烈な痛みが走る。自分の手元に散らばる血、手首から先がない自分の腕。何があったのか、理解するのに時間がかかる。あまりにも、痛みが感じなくなる。
「ユカ、ユカが謝ってくれれば、いつでも許してあげるからね？」
その言葉の後を、私は何一つ覚えていない。