優しい微笑みに騙されて

#1

「ゆかちゃん!!一緒に帰ろうよ」
友達の声に私はハッと我に返り、本から顔を上げる。
「あれ？もうそんな時間なの？」
そう呟いた私を見て、私の前に立っている女の子、上代(かみしろ)るなは呆れた顔をして私を見つめる。
「も〜。ゆかちゃんと私以外、ほとんどみんな帰ってるよ」
もうそんな時間なのか。私は教師にある時計をみる。午後6：30。るなは部活が終わったくらいだろう。
「ほら、早く帰ろ。私の幼馴染の堀崎(ほりさき)ゆかは美少女だから、悪い大人に襲われちゃうよ‼︎」
るなはそう言って私の手を引っ張る。
(美少女？私が美少女だったらきっと世の中の美少女たちが、こんなやつと同レベルではないと怒り出すんじゃない？なんなら…)
「るなの方が可愛いよ」
私はそう笑顔でつぶやいた。
「無自覚美少女め」
るなはそう言うがあくまで、きっとるなのは幼馴染に対する「お世辞」だ。と思う。
「あ、みんなもういるじゃん」
るなは校門まで行くと、そう言って走り出す。校門には既に数人の男女がいた。全員、私たちの幼馴染だ。
「遅いぞ2人とも」
そう言ったのはいかにもスポーツマンのような格好をした女子、月白(つきしろ)咲(さき)。ショートカットの髪の毛はとてもサラサラで、顔も整っている。スポーツマンの男子から大人気の子だ。
「2分32秒の遅刻だ。いつもよりかは、マシなほうだな」
そう言った男子は眼鏡をクイっと押す。黒髪センター分けで平行な目。the天才という感じだ。酒井(さかい)馨(かおる)。文武両道のガリ勉男子だ。
「まぁまぁ、本に集中できるのは良いことだよ」
もう1人の男子、山中(やまなか)尋(ひろ)はそう言うと、にっこり微笑む。ふわふわした雰囲気の可愛い系男子で、文武両道、そして性格も良し。まさに完璧男子で女子に大人気だ。
そんな素晴らしいメンツの中の地味な私が1人。なんて悪目立ちすることだろうか。本当に申し訳ないとも思えてくる。けれど、別にいじめられているわけでもなく、平穏で平和な毎日。優しい幼馴染がいて、優しいクラスメイトがいて、本当に恵まれていると思う。

私は、こんな毎日が大好きだ。