優しい微笑みに騙されて
#7
「おい…‼︎ゆかをどこに連れて行く気だ」
私が仮面の男と一緒にレンさんの元に行こうとすると走ってきたと思われる馨がそう言って仮面の男を睨みつける。
「人を誘拐犯呼ばわりしないでいただきたいですね。ユカさんが望んだことですよ」
仮面の男のあまりにも冷静な声に馨は一瞬目を見開く。
「ゆかが…望んだ?」
意味がわからないと言うような口調で馨がそう呟く。そりゃあそうだろう。
「ユカさん行きますよ」
仮面の男がそう言うと私の腕を軽く引っ張る。私はまだ呆然としている馨を置いて仮面の男について行った。しばらく無言が続いた。途中で突然仮面の男が口を開く。
「トール」
「え?」
突然仮面の男が発したその言葉に、思わず聞き返してしまう。
「私の名前ですよ。名前ぐらいは覚えておいた方がいいでしょう?」
トールさんはそう言うと仮面を外してにっこりと笑った。綺麗な、優しそうなその笑顔に釘付けになる。なぜこの人は、こんなにも残酷なゲームをしながらもこんなにも優しそうな雰囲気を醸し出すのだろうか。
「ユカさん土下座は好きですか?」
(……ん?)
突然の妙な質問に私は思考が停止する。何を言ってるんだ、この人。
「土下座を好きな人なんていませんよ…」
私がそう言うとトールさんはまた笑う。
「そりゃあそうですね。レン様にお願いしときますね。土下座はさせるなって」
"土下座はさせるな"きっとさっきのレンさんの言葉のことだろう。流石に土下座はしたくなかったからありがたい。けどなぜトールさんは、そんなことをしてくれるだろうか。
「ほら、着きましたよ」
トールさんのその言葉にハッと顔を上げる。そこには漫画や本などのイラストで沢山見てきた“お城”と言えるような建物が建っていた。一体この世界は、どうなってるんだろうか。門の前には護衛らしき男性が2人立っている。
「トール様…⁉︎今はゲーム中じゃ…」
トールさんが門の前まで行くと2人のうちの1人がそう呟く。トール様…様付けされているなら、トールさんはそこそこの立場の人なのかもしれない。
「急用が出来たから少し戻ってきた。レン様は中にいるかな?」
「レン様は多分中にいらっしゃるかと……そちらの少女は?」
男性が私の方をチラッと見る。
「今度紹介する」
トールさんはそう言うと私の手を引っ張って中に入る。広い城内を迷うことなくスタスタと進んでいく。そして一つの部屋の前まで行くと立ち止まる。
「この部屋にレン様はいるけど、怖いかな?」
トールさんはドアノブに手をかけた状態で振り向き、私にそう問いかける。怖くないわけがない。
「まぁ、レン様もそこまで残酷じゃないから」
私の心をよんだかのようにそう言うと軽く微笑む。なぜかわからないが、トールさんの笑顔は謎の安心感がある。
「レン様、失礼します」
トールさんが扉を開けると、私も見たことがある景色が広がる。1番最初に目覚めた、あの部屋だ。
「あぁユカ。来ると思ってたよ」
冷たい笑顔を浮かべるレンさんの周りに、咲の姿はない。
「トール、席を外せ」
レンさんのその言葉に、トールさんは少し私を心配そうに見てから部屋から出て行く。完全に、レンさんと2人きりになった。
「あの、咲は…」
「ちゃんと生きてるよ。ユカが無駄な抵抗をしなければ、だけどね」
サラッと脅しを入れてくる。正直、今すぐここから逃げ出したい。
「ユカ、もう少しこっちに来てくれないかな」
レンさんのその言葉に、恐る恐るレンさんに近づく。何をされるかわからない。それでも、抵抗して咲を殺されるのはもっと嫌だった。
「ねぇユカ。選択肢を二つあげるよ。ユカが好きな方を選ぶんだね」
レンさんはそう言うと、優しく私の手を握る。人とは思えないくらいの冷たい手。それだけでも恐ろしかった。
「一つ目。咲さんを含めた君のグループの身の安全を確実に確保する代わりに、ユカは僕たちの方につくこと。二つ目。ユカが僕たちを拒絶して、君のグループ全員を皆殺しにすること」
"皆殺し"その言葉が私の胸に刺さる。
「早く決めてほしいなユカ。君はどっちにするんだい?」
「私は………一つ目を選びます」
「よくできました」
レンさんがそう言った瞬間、後から何人かに拘束される。
「何、を」
「いい子にしてればいいんだよ。すぐに終わる」
レンさんがそう言って軽く手を上げると私の目の前に何かが上から落ちてくる。それを見て、私は完全に固まった。
「咲………」
ボロボロに傷つけられ、痛々しい見た目の咲がそこにいた。
「ゆか‼︎ダメだ‼︎そのレンとかいうやつは、ゆかがどんだけ従ったとしても私たちを殺そうとしてる‼︎絶対に従っちゃ………」
目の前で地吹雪が飛ぶ。
「さ………き………?」
目の前の大好きな親友の返事はもうなかった。恐怖と憎悪が湧いてくる。
「ふざけんなっ‼︎約束と違う‼︎」
私がそう叫ぶとレンさんは今まで以上に綺麗な笑顔を浮かべた。
「いいねぇユカのその顔。その、恐怖で染まった顔が可愛くて仕方がない」
「大丈夫だよ。ユカの大切な物を全部壊してから、沢山可愛がってあげるからね……?」
私が仮面の男と一緒にレンさんの元に行こうとすると走ってきたと思われる馨がそう言って仮面の男を睨みつける。
「人を誘拐犯呼ばわりしないでいただきたいですね。ユカさんが望んだことですよ」
仮面の男のあまりにも冷静な声に馨は一瞬目を見開く。
「ゆかが…望んだ?」
意味がわからないと言うような口調で馨がそう呟く。そりゃあそうだろう。
「ユカさん行きますよ」
仮面の男がそう言うと私の腕を軽く引っ張る。私はまだ呆然としている馨を置いて仮面の男について行った。しばらく無言が続いた。途中で突然仮面の男が口を開く。
「トール」
「え?」
突然仮面の男が発したその言葉に、思わず聞き返してしまう。
「私の名前ですよ。名前ぐらいは覚えておいた方がいいでしょう?」
トールさんはそう言うと仮面を外してにっこりと笑った。綺麗な、優しそうなその笑顔に釘付けになる。なぜこの人は、こんなにも残酷なゲームをしながらもこんなにも優しそうな雰囲気を醸し出すのだろうか。
「ユカさん土下座は好きですか?」
(……ん?)
突然の妙な質問に私は思考が停止する。何を言ってるんだ、この人。
「土下座を好きな人なんていませんよ…」
私がそう言うとトールさんはまた笑う。
「そりゃあそうですね。レン様にお願いしときますね。土下座はさせるなって」
"土下座はさせるな"きっとさっきのレンさんの言葉のことだろう。流石に土下座はしたくなかったからありがたい。けどなぜトールさんは、そんなことをしてくれるだろうか。
「ほら、着きましたよ」
トールさんのその言葉にハッと顔を上げる。そこには漫画や本などのイラストで沢山見てきた“お城”と言えるような建物が建っていた。一体この世界は、どうなってるんだろうか。門の前には護衛らしき男性が2人立っている。
「トール様…⁉︎今はゲーム中じゃ…」
トールさんが門の前まで行くと2人のうちの1人がそう呟く。トール様…様付けされているなら、トールさんはそこそこの立場の人なのかもしれない。
「急用が出来たから少し戻ってきた。レン様は中にいるかな?」
「レン様は多分中にいらっしゃるかと……そちらの少女は?」
男性が私の方をチラッと見る。
「今度紹介する」
トールさんはそう言うと私の手を引っ張って中に入る。広い城内を迷うことなくスタスタと進んでいく。そして一つの部屋の前まで行くと立ち止まる。
「この部屋にレン様はいるけど、怖いかな?」
トールさんはドアノブに手をかけた状態で振り向き、私にそう問いかける。怖くないわけがない。
「まぁ、レン様もそこまで残酷じゃないから」
私の心をよんだかのようにそう言うと軽く微笑む。なぜかわからないが、トールさんの笑顔は謎の安心感がある。
「レン様、失礼します」
トールさんが扉を開けると、私も見たことがある景色が広がる。1番最初に目覚めた、あの部屋だ。
「あぁユカ。来ると思ってたよ」
冷たい笑顔を浮かべるレンさんの周りに、咲の姿はない。
「トール、席を外せ」
レンさんのその言葉に、トールさんは少し私を心配そうに見てから部屋から出て行く。完全に、レンさんと2人きりになった。
「あの、咲は…」
「ちゃんと生きてるよ。ユカが無駄な抵抗をしなければ、だけどね」
サラッと脅しを入れてくる。正直、今すぐここから逃げ出したい。
「ユカ、もう少しこっちに来てくれないかな」
レンさんのその言葉に、恐る恐るレンさんに近づく。何をされるかわからない。それでも、抵抗して咲を殺されるのはもっと嫌だった。
「ねぇユカ。選択肢を二つあげるよ。ユカが好きな方を選ぶんだね」
レンさんはそう言うと、優しく私の手を握る。人とは思えないくらいの冷たい手。それだけでも恐ろしかった。
「一つ目。咲さんを含めた君のグループの身の安全を確実に確保する代わりに、ユカは僕たちの方につくこと。二つ目。ユカが僕たちを拒絶して、君のグループ全員を皆殺しにすること」
"皆殺し"その言葉が私の胸に刺さる。
「早く決めてほしいなユカ。君はどっちにするんだい?」
「私は………一つ目を選びます」
「よくできました」
レンさんがそう言った瞬間、後から何人かに拘束される。
「何、を」
「いい子にしてればいいんだよ。すぐに終わる」
レンさんがそう言って軽く手を上げると私の目の前に何かが上から落ちてくる。それを見て、私は完全に固まった。
「咲………」
ボロボロに傷つけられ、痛々しい見た目の咲がそこにいた。
「ゆか‼︎ダメだ‼︎そのレンとかいうやつは、ゆかがどんだけ従ったとしても私たちを殺そうとしてる‼︎絶対に従っちゃ………」
目の前で地吹雪が飛ぶ。
「さ………き………?」
目の前の大好きな親友の返事はもうなかった。恐怖と憎悪が湧いてくる。
「ふざけんなっ‼︎約束と違う‼︎」
私がそう叫ぶとレンさんは今まで以上に綺麗な笑顔を浮かべた。
「いいねぇユカのその顔。その、恐怖で染まった顔が可愛くて仕方がない」
「大丈夫だよ。ユカの大切な物を全部壊してから、沢山可愛がってあげるからね……?」