優しい微笑みに騙されて
#11
「最終ゲームは3色鬼ごっこ。基本的なルールは分かるよね?捕まえて良いグループ以外を打った場合はそのチーム丸々失格ね」
トールさんは手短にそう説明する。私と尋は、豊田先輩たちから逃げ、名前を知らない先輩達を追いかけるグループらしい。
「それじゃあ、スタート」
最初は誰も、動かなかった。みんな、無闇に人を殺そうとする人たちではないらしい。だからこそ、1人が動いた瞬間にすぐにわかった。豊田先輩と豊田先輩のグループの石川先輩にに向けて、先輩が銃を構える。ただただ、気まずい空気が流れた。
「瑛人………すまない」
(これ以上、大切な人を失いたくない…)
そう思った瞬間、無意識に動いていた。鉛が当たった胸が予想以上に痛い。
「ゆか……⁉︎」
「堀崎さん……⁉︎」
「なんで、お前が…」
私は、豊田先輩の前で立っていることも辛くなり、そのまま地面にぶっ倒れる。気がついたら私は、豊田先輩を守るように前に出ていて、発砲された鉛が自分の胸に直撃したのだった。攻撃対象じゃない私を打った先輩のグループは、失格になる。つまり、私が殺したような物。そんなのは分かっていた。
「あぁクソっ‼︎俺たちが失格になるじゃねぇかよ……」
先輩のグループの2人が、糸が切れた操り人形かのように突然倒れる。
「堀崎さん、なんで……」
「豊田先輩には、お世話に、なったのと、さっき私を、心配してくれたのは、豊田先輩だけでしたし…」
途切れ途切れになってしまったそれを、聞き取れたかは分からない。自分の視界がどんどん暗くなるのが分かる。トールさんが静かに近づいてきて、私の顔を触れた所で、意識は途絶えた。




◇ ◆ ◇
(なぜ、こんな目に…)
俺、豊田瑛人に向けて撃たれた鉛を、なぜか他のグループの後輩が受け止めていた。さっきもそうだ。仮面の男の俺に向けての殺意を抑えてくれたのも、堀崎さんだったのに…。焦りと不安と自分への怒りが沸々と湧いてくる。
「邪魔だ。退け」
倒れた堀崎さんを支えていた俺を無理矢理どかした仮面の男は、優しい手つきで堀崎さんを触ったかと思うと、俺の方は見ずに俺に向かって発砲したと思ったら、その鉛は自分の後へ飛んでいく。
「ウ゛ッ…」
俺の後で、石川が倒れた。その手には、拳銃が握られている。仮面の男か、山中くんを打とうとしていたのだろう。そして、俺は仮面の男の行動を見て、ギョッとした。鉛が当たった堀崎さんの胸を、舐めていた。何をやってるんだ…?ジッと見ていると、気がついた時には堀崎さんの胸の傷は塞がっていて、顔色も大分良くなっていた。何をやったのかはわからない。ただ、堀崎さんを助けたということだけがわかった。考えてみれば、この2人の関係はどういう物なのだろうか。やけに堀崎さんと仲が良さそうで、だけど堀崎さんは少し彼を恐れているようで、それでもなぜか彼の名前を知っていて…考えれば考えるほどわからなくなる。
「あぁ…もうゲームは終わりでいいや。どうせ君たち、ユカが命をかけて守った先輩だからとか、ユカと仲がいい幼馴染で自分の後輩だからとか、そういう理由でお互い殺せないんだろう?」
俺は隣にいる山中くんと顔を見合わせる。その通りだった。きっと、このままゲームを続けても俺はそうなるだろう。
「ずっと思ってたけど、あなたゆかの何ですか?」
山中くんのその問いに、仮面の男は何かを少し躊躇ってから口を開く。
「ユカの…兄だね」
予想外の言葉だった。堀崎さんの、兄。ならなぜ堀崎さんは彼のことをさん付けしているのだろうか。
「血は繋がってない。義理の兄だよ。会ったのも、このゲームが初めてだ」
仮面の男はそう言うと、堀崎さんをお姫様抱っこした状態で立ち上がる。
「ユカに何か伝えておきたいことある?元の世界に戻ったら、ここでの記憶、ここで死んだ人に記憶は全部なくなる。最後に伝えておきたいことがあるなら早く教えて」
俺は自分が堀崎さんに伝えたいことを簡単にまとめて、仮面の男に伝えておく。
「それじゃあ一応、クリアおめでとう」
彼がそう言った瞬間、目の前が明るくなった………




朝、目が覚める。何だろうか…。すごく、怖い夢を見た気がする。何かはわからない。確か堀崎さんが俺を守って………


あれ……?




堀崎さんって、誰だっけ?
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