優しい微笑みに騙されて
◇ ◆ ◇
ユカの部屋を出た後、すぐにレン様の部屋に向かった。ユカにトール兄様と呼ばれるのは、中々嬉しい。あの少し照れたかんじ感じの表情であんな風に呼ばれると、ユカを襲ってしまいそうになる。気をつけないとなと思いつつも、そこまで気にしていない自分もいる。
「失礼しま……」

「信じらんない‼︎トール兄様だけがユカを独り占めなんて‼︎僕もユカの隣の部屋がよかった‼︎僕の方が前からユカと知り合ってるのに‼︎」

扉を開けた瞬間に、愚弟……いや、ユーリの喚き声が聞こえる。
(何やってんだ…コイツ)
俺は溜まってる仕事をやれと言った気がしたのだが、伝わってなかったのだろうか。1人で喚いてるユーリをレン様は邪魔そうに見つめながら自分の仕事をしていた。
(中々にカオスだな)
「あぁ‼︎トール兄様‼︎僕と部屋変わってくださいよ‼︎」
俺は喚いているユーリを無視してレン様の元に行き、色々溜まっている仕事の山から少し取り、近くのソファーに座って作業を始めた。
「トール。で?今どんな感じなの?」
レン様が俺にそう問いかける。俺は軽くユーリを見てから呟いた。
「ユーリ、大切な話をするから一回退出してくれ。そしてお前の仕事をやれ」
「はーい……」
とても残念そうにユーリは出て行く。それを確認してから口を開いた。
「上手い具合に行ってますよ。ユカのエスコートはすることになりましたし、少し薬を飲ませたことによって俺への警戒心は完全に薄れました」
俺のその報告を聞くとレン様が満足そうに微笑んだ。
「ならよかった。そしたらこれからユカの食事にその薬をバレない程度に混ぜておくように。ユカには僕達への恐怖心と人間を殺すことへの抵抗心を無くしてもらわないと困るからね」
薬を飲ませてユカの記憶と脳を操るのは最初はとても気が乗らなかった。ただ、今のままだと結局は何も出来ない。そう思うと、ユカに鉛が当たったあの時、ユカの傷を舐めた時、体内に薬を入れてよかったと思っている。結果的にユカのあんなに可愛い顔も見れたわけだし。
「あ、言っておきますけど、レン様にユカは譲らないんで」
これだけは言っておかないとレン様は絶対にユカをありとあらゆる手で自分の物にしようとするだろう。
「トール、残念だったね。僕も全く同じことを言おうとしてたよ」
レン様はそう言うと感情が読み取れない笑顔を浮かべた。
「ユカは絶対に僕の物にするから。ノロノロしてると奪っちゃうよ?」
レン様のその言葉が嘘か本当かは分からない。ただ、きっとユカを自分の物にしようとしているのは確かだろう。
(ユカをどうやって落とそうかな)
他のやつに奪われる前に、ユカを俺の物にし、ユカ自身に俺への恋愛感情を植え付ければいい。俺なしでは、生きていけないようにすれば良いだけの話だ。
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