自己喪失の救済

序:虚構の詫びごと

 目を閉じると、時々思い出す。
 暗い部屋の中で、布団にくるまっていた昼のことを。
 (しばら)くすると、涙が出てくる。
 目を開けて、一つ息を()く。
 あの日の彼女は、もう既に過去の人物である。
 悪魔に憑かれたとでも表現しようか、あの寂しい怪獣はもう葬られた。
 「あなたの役目はもう終わった」
 「役目……?」
 「……『学び』よ。あなたは『学び』をもたらした……ありがとう」
 そうして彼女は光のうちに消えたのだ。
 怪獣は、悲しくも嘘を信じ込み、架空の人物を傷つけたことを悔い、架空の人物に対して謝罪し続け、「償い」として自身に罰を与え続けていた。
 彼女が葬られたとき、ようやくその罰も終わったのである。
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