子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 ふたりはこちらに向かって歩いてくる。お義母さんも家政婦さんも細長い桐の箱を持っている。茶室でなにかしていたのだろう。

「いらっしゃい」

 早速疾風さんを通して紹介された。

「今ちょうど茶室の準備をしていたのよ。来週フランスからお客様がいらっしゃるのでね。掛け軸がなかなか決まらなくて」

 なるほど桐箱の中身は掛け軸なのか。

 疾風さんは「ああ、アランCEOか」と、お客さまが誰かわかっているらしい。

「今日は家を見てもらうのに連れてきただけだから、気にしないで続けて」

「ごめんなさいね。まだ当日の食事も決まっていないものだから。さあ、どうぞ中に」

「ありがとうございます」

 お義母さまはしきりに謝りながら、家政婦さんと足早に邸に入っていった。

「忙しそうですね」

 彼はにやりと口角を上げて、私の腰に手をかける。

「おかげで気兼ねなく家の中を案内できる」

 ふふっと彼は不敵に笑うが、私の不安は増すばかりだ。

 

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