子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 やっぱり、私との結婚なんて無理だった。それだけの話。

 お腹を撫でながら、大丈夫だよ、心配ないよと赤ちゃんに語りかける。

 パパがいなくてもママがちゃんと守ってあげるから。
 なにがなんでも守ってあげるから心配ないよ。


「戻りました」

 振り返った水咲先輩が、心配そうに私の顔を覗き込む。

「円花ちゃん、大丈夫だった? ん? 顔色が悪いじゃない」

「あ、あはは大丈夫ですよ。今日は胃の調子が悪くて」
 頬を指先でぐりぐりと押した。
 顔に出しちゃダメ。ここは会社なんだものしっかりしなきゃ。

「そう、無理しないでね」

「はい。ありがとうございます」

 席に着くと、スマートフォンの通知ランプが目にとまった。

 開くと疾風さんからだった。

 もしかして、結婚の報告?

 目をつぶってゆっくりと息を吸い、気持ちを落ち着けた。

 お父さまが言った〝覚悟〟が私にはなかったんだもの、そうなっても仕方ない。

 わかっていたし。私には辰上家の女主人が務まるとは思えないから、これでいいんだよね。

 しばらくスマートフォンを見つめてから手に取った。

【面倒がおきて、もう一日泊まる。綺麗に片付けて明日は直接出勤する】

 疾風さん……。

【わかった。気をつけてね】

 とり急ぎ今日中にマンションの荷物を運び出そう。

 アパートの契約延長はまだ間に合うかな。もしダメだったらほかを探さなきゃ。仕事は辞めなくちゃいけなくなるけど、とりあえずバイトでもいいから働かないと。

 泣いてる暇なんかない。


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