子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 夕方の五時、あと少しで退社時間だ。

 できれば疾風さんと一緒に退社して、どこかでお茶でも飲みながら別れ話を済ませたい。マンションで話をする勇気はないから。

 先に会社を出てメッセージを送って呼び出そうか。

 考えながらデータを入力していると内線電話が鳴った。

「はい。総務です」

『桃井さん、お願いがあるんですけど、黄色のマーカー持ってきてくれないかしら。一本でいいの』

 一本?

「はい。わかりました」

 彼に知られては厄介なので、なにも言わずに席を立った。

 電話をかけてきたのは時野さんだ。

 嫌がらせに違いない。黄色のマーカーは何本か秘書課に置いてあるはずだから。

 念のためにマーカーを三本ほど持って秘書課に向かう。

 こんな思いをするのも彼女か私が退職する日まで。永遠に続くわけじゃないもの、大丈夫。

 大きく深呼吸をして、心を強くしてからエレベーターを降りた。


「あ、円花ちゃん。こっちこっち」

 まるで待ち構えたように、時野さんは給湯室から顔を覗かせた。

「一本でいいですか?」

「そうよ。一本。なにか?」

 こんなふうに意地の悪い笑みをする人だったなんて。

 私はどうして見抜けなかったんだろう。

「いえ。では失礼します」

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