子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~


「どうしたの、いったい」

 仁さんが水の入ったグラスを差し出す。

 ここは氷室仁がオーナーを務める店『氷の月』。

 俺たちは青扇学園という、全国から資産家の息子や娘が集まってくる学園に通った。

 仁さんの家もいくつもの会社を経営し、彼自身も山のような肩書きを持っていて、自分のキッキン代わりに店をオープンさせるという道楽ができる資産家だ。

 彼は先輩だが、幼稚園から高校まで同じ学園に通った長い付き合いの友人である。

 ここにはうまい食事とうまい酒がある。気の置けない友人との会話をつまみに一日の疲れをアルコールで流す。
 円花と同居を始めるまでは、毎晩のようにここに通った。

「酒豪がそこまで酔うなんてどんだけ飲んできたんだよ」

 カウンターの隣の席から、仁さんが呆れたように肘をつき俺を見ている。

「さあ、覚えてない」

 この店のオープンは夜の九時だ。それまで時間があったから、目についた店で適当に酒を飲んでから来た。一軒目はワイン一本開けて、二軒目はウイスキー。そしてここでまたウイスキー。合わせて一本分くらいはウイスキーも飲んだが。

 今日ほど酒がまずい日はない。

「それで? 平日だっていうのに、いったいなにがあったわけ?」

「ジジイが時野グループのクズ女と籍を入れろと言いやがる」

「え、一緒に住んでる彼女がいるのにか」

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