子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 仁さんはバーテンにボトルを開けるよう伝え、自身もカウンターの中に入る。

 新しいグラスに大きな球体の氷をひとつ入れ、開けたバーボンを注ぐ。

「はい、どうぞ。これうまいぞ」

「サンキュー」

 喉を潤してひと息つく。

「うまい」
 悲しくなるほどうまいよ、仁さん。

「女の子には優しくしないと」

 言われなくてもわかっているさ。
「逃げるのを黙って見送れないでしょ」

「そこを逃がすんだよ。生け()にね」

 クスッと仁さんは笑う。

「なにも本当の海に逃がす必要はないでしょ」

「食えない男だな」

「だてに女ったらし、してないし」

 あはは。確かにな。

 それでも俺は円花が逃げるのを黙って見つめるなんてできない。

 円花はひとりなんだ……。
< 125 / 159 >

この作品をシェア

pagetop