子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
『疾風、そろそろ帰ってこい』
二年前、有無を言わさぬ父の指示により、俺は東京に帰ってきた。
叩き上げで今の地位を築いた父は、俺の存在を公にはしていない。御曹司としてチヤホヤされないためだという。
わざわざ竜神という偽名まで使わせるという念の入れようだ。
タツガミと声にすれば同じだが、辰上という字が俺の本当の名字である。
今は父の会社を継ぐための修行期間だ。父はまだ五十代の現役バリバリで引退には遠い。あと十年以上は厳しい訓練が続くだろう。
実際のところ、俺もチヤホヤされるのは好きじゃない。表面上へつらわれたところで、なんの足しにもならないし。
帰国して最初に入社したのは子会社だった。ウォーターサーバーや自販機のメンテナンスという現場に配属された。もちろん素性は隠してだ。そのときの名字はタツノ。
ボトルを担げば系列会社の全てに出入りできるという利点があった。
見慣れた作業服でいる限り自由に社内を歩き回れる。特に今いるTATU本社では面白いほど空気になれた。
秘書課の近くにある休憩コーナーは、情報のるつぼだった。