子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 時野を中心にした秘書課の女どもは作業服を着た下層の者になどいっさい興味がない。ときには『早くしてくれない?』などと横柄な態度をとる。

 陰口が好きで俺がいてもお構いなしに、ドリンクを飲みながら噂話を続けた。

 某役員はセクハラが激しい。取引先の誰それは必ず誘ってくる。某部長は目が出そうな部下をパワハラで潰す。某は合コンを主催しては新入社員に手をつける、などなど。

 あるとき、噂話の中に総務の新人、桃井円花の話題が登った。

『目障りなのよ。おとなしいふりして腹の底はどう思っているのかわかんないのよあの子。どうせ玉の輿狙いのくせに』

『営業の評判がいいからって、調子に乗ってるのよね。媚びちゃってさ』

 総務課の桃井円花。当時は新入社員だった。

 俺は桃井をよく見かけていた。

 秘書課の女のように男に媚びたりしない。というかむしろ、誘われると困ったように腰を引いて逃げていた。とても玉の輿狙いには見えない。

 若い営業部の男と話をするより、警備員や掃除をしているシルバー人材センターの職員との話の方が楽しそうだった。

 彼女は秘書課の時野らとは対極にいた。
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