子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
職務に分け隔てなく『おはようございます』『お疲れさまです』と自分からにこやかな挨拶を欠かさないし、俺が汗臭いタオルを落としたときには、拾って追いかけてきてくれた。
いつの間にか俺に『ウォーターさん』などとあだ名をつけていたとは知らなかったが、俺は桃井円花をよく見ていたから。
小さな手帳をポケットに入れて持ち歩き、なにかと思ってコッソリ覗くと、座席の位置と人の名前が書いてあった。一生懸命ブツブツ小声でつぶやいてはなにか覚えていたりした。
でしゃばらず、控えめで気持ちの優しい女の子。それが総務課の新人桃井円花だ。
去年一年間俺は、水を担いでひと通りの系列会社を覗いて周り、改めて本社に入社した。
『営業から始めるか』と父に言われ、総務を願い出た。
『理由は?』
『金の使い方が気になる。経費で不正をする者は信用できない』
父にも思うところがあったのだろう。俺は総務課の配属になった。
あのときの父の進言に嘘はないが、心の片隅に桃井円花の笑顔があったのは秘密だ。
それにしても――。