子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 レストランに行けばウエイターより先に、私の椅子を引いてエスコートしてくれる。『円花に似合いそうだ』と服やアクセサリーを買ってくれて満足そうに微笑む。自転車とすれ違うときは私の前に出て、いつだって私を守るように寄り添い歩く素敵な王子様。

『愛してるよ』

 耳もとで囁かれる度に、〝私も愛してる〟と心の中で答えていたのを、疾風さんは知らない。

 私は一生分の恋をした。

 二度と恋をしなくてもいいくらい思いきり。

 高所恐怖症は本当でも、マンションから眺める夜景が好きだったのも嘘じゃない。

 少し無理をしている感覚が、心のブレーキを忘れないためにちょうどよかった。

「これでいいんだよね」

 彼の輝かしい未来のために。

 明日退職届を提出するつもりだ。

 急だからみんなには心配かけてしまうのは申し訳ないが、他に道はないし。

 辞めた後はどうするか決まっていないから、有給休暇を消化しながら職探しをしないといけない。
 できれば体に負担のない事務職が見つかるといいが……。


 立ち上がってお腹を撫でた。

 大丈夫。私にはこの子がいるもの。がんばれる。

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