子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
「おはようございます」

 頬を上げて気持ちを落ち着ける。

 今日明日に退職できるわけじゃない。引き継ぎが済むまで辛抱しないと。

「円花ちゃん、ごめん、ちゃんとお願いできる?」
「はい」

 朝から水咲先輩は忙しそうだ。課長に呼ばれたりバタバタしている。

「このファイル、海外事業部に届けて欲しいの」
「了解です」

 廊下に出て、総務課の扉を閉めると肩の力が抜けた。

「ふぅ」

 彼の近くから離れるとホッとするな。

 別れ話になるとオフィスラブは大変だなぁ、としみじみ思う。しかも席は隣だし。

 そして、無事海外事業部にファイルを届け、エレベーターに乗ろうとしたときだった。

 開いた扉を見て、ハッとして息を呑んだ。

 辰上社長と藤原専務がエレベーターの中にいたのである。

 頭を下げてそのまま閉じるボタンを押すと「乗りなさい」と声をかけられて、それは社長の声だった。

 そう言われては乗るしかない。

「失礼します」

< 137 / 159 >

この作品をシェア

pagetop