子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
「桃井さん?」

 疾風さんの呼びかけに答える余裕はない。

 駆け込んだトイレで少し吐いてしまった。

 もしかして、これがつわり?

 参ったな。

 もしかするとストレスかもしれない。心を強くしっかりしないと。

 洗面所の鏡を見ながらペシペシと頬を叩く。

 廊下に出ると疾風さんがいた。

「大丈夫か?」

「あ、うん。大丈夫」

「顔色が悪い」

 せっかく頬を叩いたのに効果なしか。

「朝ご飯が傷んでいたのかも」
 あははと笑ってみせた。

「円花、ちゃんと話をしよう」

 疾風さんは心配そうに私の顔を覗き込む。

 人が通るここで喧嘩はできないし、それに、これきりというわけにはいかない。喧嘩別れなんて悲しすぎるもの。

「わかった。今日はマンションに行く」

「いや、俺がアパートに行くよ」

 え、それは。

「高所恐怖症なんだろう?」

 彼は皮肉を言っているんじゃない。少し悲しげな目をしている。

 ごめんなさい傷つけて。

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