子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 彼女は知っていたのだ。

「お店の防犯カメラに映っていました」

 差し出した写真は、男性がグラスに何かを入れるシーンと、時野さんがその様子を見て笑っているシーンを印刷したもの。

 私が席でうなだれはじめたのを見届け、彼女は秘書課の女性たちに耳打ちして、追い立てるように店を出て行った。三人のうち、ひとりの女性は心配そうに私のもとまで来て声をかけていたが、時野さんに引っ張られるようにして連れ出されていた。

 彼女は悪魔だ。こんな悪事を働く人と結婚しても疾風さんが幸せになれるとは思わなかった。

 だから、辞めるまでに、誰かに相談しようと思ってポケットに入れて出社したのだ。

「明日にでも弁護士に相談しようと思います。私はあなたを許せない」





***





「いらっしゃい」

 夜の七時過ぎ、疾風さんがアパートに来た。

「おじゃまします」

「知ってると思うけど、狭いよ?」

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