子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
「心配ないですよ、ランチ御膳がありますから」

 竜神さんはこともなげにサラリと言うが、定食屋のようなわけにはいかないだろう。

 迎えに出た仲居さんと彼が、顔見知りっぽく挨拶を交わしている。

 もしかして常連客なんだろうか。

 着物を着た仲居さんに案内されるままピカピカに磨かれている廊下を進む。

 懐石料理を失礼のないように食べる自信はないけれど、せっかくの機会だ。失敗を気にせず満喫させてもらおうと思いつつ、ふと閃いた。

 この際だからここのお会計を先週末助けてもらったお礼にさせてもらおうか。何万円も現金は持っていないけれどカード払いにすればいいし。

 彼に助けてもらった恩を思えば料亭のランチなど安いくらいだから。


 個室に入って早速申し出た。

「あの竜神さん、この前のお礼にここは私が」
「いや、今日は俺が誘ったから俺が払います」


 はいはい、そうですね、すみません。

 つけいる隙なしか、はぁ……。
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