子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~

『ちょっと話があるんです。明日の昼一緒にどうですか? ご馳走しますから』

 竜神さんからそんなふうに誘われたけれど、なにかお説教されるに違いなく、食事は楽しみな反面、気が重い。

 彼は強い人だ。勇敢で堂々としている。
 頭も切れるし見た目の良さも相まってこの先順調に出世していくだろう。

 私は逆。
 周りの空気を読んだり、顔色を伺いながら、目立たないよう気を使っている。
 出世など望んでいないし、細くていいから長くここで働いていきたいと思っている。

 彼には、そんな私が歯がゆくて仕方がないのだ。

 でも、私は竜神さんのようには生きられないし、心配して言ってくれるのもわかるだけに、申し訳ない思いでいっぱいになる。

 彼が総務を離れる日もそう遠くないだろう。
 ランチを共にするのも、今日が最初で最後だと思うし、お説教されても、よくお礼を言わなきゃね……。


 カーンと高い音がして庭を振り向けば、鹿威しが水を吐き出した音だった。

 苔むした水辺と美しい木々。水のせせらぎのほかは、琴の調べが静かに流れる部屋にふたりきり。なんだかとっても落ち着かない。

 向かいの席に座る竜神さんをチラリと見ると、彼はゆったりとした様子見で静かにお茶を飲んでいた。

 

 そうだ!

 ふと思い出した。ちょうどいい機会だから聞いてみよう。

「竜神さんって、双子だったりしますか?」

「いや?」

 竜神さんの片方の眉が怪訝そうに歪む。

「そうですか。じゃあうーん……でも、そっくりなんだけどな」

「誰とですか?」

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