子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 にっこりと微笑んだ竜神さんはハンカチを差し出した。

「ほら」

 ハッとして頬が濡れているのに気づいた。

「思い切り泣け。でもここはちょっと人目があるから、落ち着いたら移動するぞ」

「――はい。ちょっとトイレに行ってきます」

「ああ」

 立ち上がると一瞬くらりとした感覚になった。

 やっぱり酔ってる。

 慎重に歩いてトイレに入り、借りた竜神さんのハンカチで涙を拭いた。

 今回の件では泣いていなかったから、心の涙が溜まっていたんだろう。
 歯を食いしばって、なんでもないと言い聞かせていたから。

 同性に助けてもらえなかったことが、本当はショックだった。
 深く深く、心が傷ついた。

 誰でもいいから助けてくれれば、男性ふたりに持ち帰られそうになったりしなかったらだろうに。

 どうして助けてくれなかったの?


 そのまま少し泣いて、竜神さんが心配しないよう笑顔を作ってからトイレを出た。

 席に戻ると、竜神さんが立ち上がる。

「じゃ行くか」

「はい」

 お会計をとレジに向かうが、私より少し先にレジに向かった竜神さんがスッとカードを差し出している。

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