子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
 ウォーターさんは営業部の男性からの誘いをうまく断れずにいた私を助けてくれた。

 A3用紙が入った重たい段ボールに途方に暮れていたときも『どこに運びますか?』と、いつの間にか現れて、軽々と持ち上げてくれた。

 彼のタオルを拾って、慌てて追いかけたのも、私と彼しか知らない話だ。

「本当にウォーターさんだったんですね……」

「わけあって隠密行動をしていた」

「おんみつ?」

 忍者か、と突っ込みたくなるが彼は真顔で言っている。

「密かに社長に頼まれてな。俺の素性を知っているのは、社長と専務の藤原さんと総務課長だけ」

「そう、なんですか」
 としか言いようがない。

 でも考えてみると、すべてに納得できる。

 なぜ総務にいるのかも、管理職の不正に厳しいのも。先輩たちに向かって、堂々としていられるのもすべて、社長のお墨付きだったのだ。

 総務はすべてに通じている。
 お金の流れは掘れば掘るほど奥が深い。経費の使い方で、人格も見えたりする。人前ではいい顔をするが、実はケチでセコい第五営業部の部長がいい例だ。
 逆に第一営業部の部長は高額でない限り自腹で払ってしまったりする、太っ腹でおおらかな人で部下に慕われている。

 それに総務は、どの部屋にいても不信感はもたれない。秘密裏にになにかを調べるには最適の部署だろう。

「隠密のお仕事は、順調なんですね?」

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