子作り婚の行方。~年上で暴君な後輩と、私の秘密の恋~
「ああ。このままいけば順調にミッションを完了できそうだ。だが、ひとつだけ困っている。こればかりは俺ひとりではどうにもできなくて」

 なんだろう。まったく想像できない。

 ひとりでできないとなると、大きなプロジェクトかなにかかしら。

「いずれは海外事業部へ異動し役付になる予定なんだが、そのためには結婚しなきゃならない」

 え? そっちですか。
 意外過ぎる理由に首を傾げた。

「海外事業部の役付で独身はいないだろう?」

「ええ、まぁ」
 っていうか、そもそも海外事業部の管理職の方は若くても三十歳過ぎですし。竜神さんまだ二十代ですのでね。

「社長は結婚していない男は信用できないと言うんだ。俺にとってはこれが一番難しい」

 難しい?
 モテモテなのだから、よりどりみどりだろうに。

「恋人もいないと?」
 ニューヨークにも?

「いない」

「そうでしたか」
 へえ、意外。

「考えたところでこれといった相手が浮かばない。よく知りもしない女を引っ掛けるわけにもいかないし。見合い結婚というのも気が乗らない」

 まあわかる気もする。
 要は好きな女性がいないのね。

「そこでだ。君にお願いがある」

 ん?
 お前じゃなくて、君になった時点で、なんだか嫌な予感がする。恋のキューピットとか絶対嫌なのに。

「俺と結婚してくれないか」

「――え?」

 驚きのあまり危うくグラスを落としそうになった。

「おっと、危ない」

 慌てて竜神さんが手を伸ばしてグラスを支える。

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